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第74回勤改センター通信 『睡眠負債』をご存じですか

 

『睡眠負債』をご存じですか

 

2019年から労働基準法による時間外労働の上限規制が設けられ、2024年の4月には5年間上限規制が猶予された建設、医師、自動車運転手等にも全面適用となったことは記憶に新しいことと思います。質・量ともに良い睡眠をとることが体調管理並びに仕事の能率向上につながるわけですが、経済協力開発機構(OECD)のデータ(2021年)によれば、日本人の平均睡眠時間は7時間22分であり、加盟30か国の中で最下位の数値だったそうです。

睡眠の量がどれほど体に影響するかを調べる面白い実験研究結果がありました。被験者にそれぞれ1日当たり9・7・5・3時間ずつの睡眠時間を与え1週間を過ごしてもらい、実験期間中1日ごとにランプが見えたらボタンを押してもらいその反応を見る実験です。9時間の睡眠の人は1週間の間ほとんどミスがありません。ところが、3時間の睡眠の人は、2日目・3日目でミスが2桁になるという結果でした。この結果から睡眠時間が短いと能力に影響を及ぼすことが分かりますが、この実験でさらに面白いのが7時間睡眠の人です。冒頭に掲載した日本人の平均睡眠時間とほぼ同等であり、十分に寝ているように思う時間ですが、9時間の人と比べ、実験中の週後半の日にかけてミスが増えていくのが分かりました。これは1日7時間では睡眠の量が不足し、そのちょっとずつの不足の積み重ねが『睡眠負債』となって能力低下を引き起こさせていることを表しています。そして、日本人の大半は睡眠負債の状態で生活していることになります。

では、この毎日ちょっとずつ積み重なる睡眠負債、『週末の寝だめ』で解消できるのでしょうか。中国の中南大学湘雅医院の研究グループが週末の寝だめが「うつ症状」に与える効果を検証しました。結果は週末の寝だめ時間が平日の平均睡眠時間に+0~2時間の場合にのみ有意な効果を発現しました。また、平日の平均睡眠時間+0~2時間の週末寝だめの時間は脳卒中や心筋梗塞などの心疾患でも有病率が低価したと報告されています。週末の寝だめ時間も長すぎると体に良くないようです。

日本生産性本部がまとめた2022年の労働生産性の国際ランキングによると、日本は経済協力開発機構に加盟する38か国中30位で、比較可能な1970年以降で最下位でした。労働生産性が日本より高い欧米諸国は当然に日本人より平均睡眠時間が長い傾向にあります。仕事の効率を上げるためにもまずは、生活のリズムを見直して、適度な睡眠をとるように心掛けてみるのはいかがでしょうか。

 

(今回の担当:医療労務管理アドバイザー 舩越 信二郎 社会保険労務士)

 

▶鳥取県医師会報2024年8月号(No.830)掲載記事はこちら