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『労働時間をめぐる研究紹介―石嵜氏グループの研究』
労働時間の定義は労働基準法の条文の中で示されているわけでなく、三菱重工長崎造船所事件以降の判例により労働時間性について様々な見解が示されてきました。判例研究を通じて、労働時間該当性の判断基準を明確に提示したのは、石嵜信憲氏を中心とする研究グループであります。その著作(労働時間規制の法律実務第2版)ではこの判断基準と、その具体的適用として様々な労働時間をめぐる問題に対して、一定の解釈が示されています。この著作は労働時間研究の現段階のスタンダードと言えます。ここでは、この著作の中から、労働時間該当性の判断基準とオンコールの時間について、簡単に紹介します。
1 労働時間該当性の判断基準
例えば勤務医の業務が所定労働時間内に行われた場合、原則として、労働時間とみなされます。ただし、休憩時間は除きます。しかし、休憩時間において、労働からの解放が保証されておらず、対応の必要が生じた時は直ちに作業に就かなければならない状態に置かれている場合は、手待ち時間として、労働時間と判断されます。
この時間帯では、 ①業務遂行に関する義務付け、②場所的拘束性、③業務性が基本的な判断基準とされています。①はさらに、A: 使用者からの明示的な命令がある場合、B:黙示的な命令がある場合、C:余儀なくされた場合の3つのパターンがあります。こうした基準を根拠に、個別具体的かつ客観的に検討したうえで、使用者の指揮命令下にあると考えられる場合に、労働時間と判断されます。業務遂行への義務付けがAの使用者の明示的な命令により行われ、義務付けの程度が強い場合、業務性が低くても、労働時間となる場合があるし、緊急対応など業務性が高い場合、①の業務遂行に対する義務付けがなくとも、労働時間と判断される可能性があります。
なお、休日の行為が労働時間と判断されるためには、労働日の拘束時間外と比べて、より強度な①業務遂行に関する義務付け、②場所的拘束性が要求されると考えられます。
2 オンコール(呼び出し待機)の時間について
緊急事態の備えとして、待機場所が指定された場合の待機時間はは手待ち時間と判断されますが、待機場所が指定されていない場合の待機時間がオンコールということで、一般に労働時間ではないとされています。
手待ち時間の場合は、呼び出しに即時に対応する義務があるが、オンコールの場合は、時間的余裕があり、労働時間と切り離して考えることができるからです。
しかし、呼び出し時における労務提供の回数と負担が著しくて、待機中の生活時間が実質上確保されていない特別の事情が認められる場合には、労働時間となる可能性があります。
もちろん、オンコールで呼び出され、業務に従事した時間は労働時間となります。
(今回の担当:医療労務管理アドバイザー 田淵淳一社会保険労務士)