鳥取県医療勤務環境改善支援センター

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鳥取県・鳥取労働局委託事業:公益社団法人 鳥取県医師会

第52回勤改センター通信『研鑽の時間は労働時間に該当しますか?』

『研鑽の時間は労働時間に該当しますか?』

 

1 はじめに

 令和6年4月1日から勤務医にも時間外労働の上限規制が適用されます。これまで36協定で定める時間外労働については、厚⽣労働⼤臣の告示によって上限の基準が定められていましたが、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を⾏わなければならない特別の事情が予想される場合には、特別条項付きの36協定を締結し届出をすることにより、限度時間を超える時間まで時間外労働を⾏わせることが可能でした。

 しかし、令和6年4月1日以降、臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることのできない上限が設けられ、違反した場合には罰則(6か⽉以下の懲役又は30万円以下の罰⾦)が科されるおそれがあります。これまでより勤務医の労働時間が少なくなる病院もあるのではないでしょうか?

 

2 労働時間

 労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たります。そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければなりません。

ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内で行った時間

イ 使用者の指示があった場合に即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っている時間

加えて、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間は労働時間として扱わなければなりません。

 

3 研鑽

 医学は高度に専門的であり、且つ日進月歩の技術革新がなされています。そのような中、医師はその職業倫理等に基づき、一人ひとりの患者に対して最善を尽くすため、新しい診断・治療法の追求やその活用といった研鑽を重ねており、こうした医師の研鑽は、医療水準の維持・向上のために欠かせないものです。

もっとも、個々の医師が行う「研鑽」の労働時間該当性については、関係者間で共通の認識がなく、判断が困難になっていると指摘されています。即ち、当該医師の経験、遂行する業務の内容、当該医療機関が当該医師に求める医療提供水準等を踏まえ、当該医師の上司がいかなる範囲を現在の業務遂行上必要な研鑽と捉え、それを行うよう指示するかについて、現場の判断によらざるを得ないところにこの問題の難しさがあります。

前述のように、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間は労働時間として扱わなければなりません。医師に対する時間外労働の上限規制が適用される令和6年4月1日に向け、個々の医師が行う「研鑽」の労働時間該当性について、医師、上司、使用者が共通の認識を持つことが必要です。厚生労働省のホームページにはこの問題に関する基本となる考え方及び判断を明確化する手続等が掲載されています(令和元年7月1日基発0701第9号労働基準局長通達)。ご参照ください。

 

(今回の担当 医療労務管理アドバイザー 荒松雅美 社会保険労務士)

 

 

 

▶鳥取県医師会報2022年10月号(No.808)掲載記事はこちら