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第28回 勤改センター通信「私生活上の非行を理由として職員を懲戒解雇することができるか?」

常時10人以上の労働者を使用する者は就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければなりません。そして、解雇の事由を含む退職に関する事項は就業規則に必ず定めなければならない絶対的必要記載事項ですから、多くの就業規則には懲戒その他の解雇事由が定められているものと思われます。

もっとも、解雇に関する事項を就業規則に定めていれば直ちに解雇できるかといえばそうではありません。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効となるからです。

さて、就業規則に「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」を懲戒解雇とする旨定めているタイヤ製造会社(Y)があったとします。この会社のヒラ社員(X)が私的に飲酒した後の深夜他人の住居に無断で侵入し、住居侵入罪で罰金刑を受けた場合、Y社のXに対する懲戒解雇は有効でしょうか?

最高裁判所はこの事案について懲戒解雇は無効と判断しました。その理由として、①本件Xの侵入行為が会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、②刑罰が罰金2,500円(昭和45年当時)に止まったこと、③社内におけるXの職務上の地位が指導的なものではないこと、等々。これらの理由により最高裁判所はXを「Y会社の体面を著しく汚した者」には当たらないと判断しました。換言すると、Xに対する本件懲戒解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないと判断したのです。

然るに理由①に関して、仮にXが訪問介護事業所等の職員であり、所定労働時間内に訪問先の住居に無断で侵入したケースでは解雇は有効と判断される可能性があります。また、理由②に関して、仮にXの科された刑罰が罰金ではなくより重い懲役刑であり、しかも法定の上限3年であったというケースでは解雇は有効と判断される可能性があります。さらに、理由③に関して、Xが○○課長であるとか○○部長であるといった職務上指導的地位にあったというケースでは解雇は有効と判断される可能性があります。なぜなら、これらのケースでは、「社員教育が十分なされていない」「管理職の人選が杜撰」等、会社に対する非難が強まることが予想されるところ、体面を汚したかどうか、すなわち当該解雇に合理的な理由があるかどうかは、会社に対する非難のような主観的評価に左右される部分が少なくないからです。

人々の主観的評価を前提(判断材料)として当該解雇に合理的な理由があるか否か、第三者の目で客観的に判断するのは裁判でしばしば用いられるロジックといえましょう。

(今回の担当 医療労務管理アドバイザー 荒松雅美 社会保険労務士)

 

▶鳥取県医師会報2020年10月号(No.784)掲載記事はこちら