健康なんでも相談室

高齢女性にみられる帯下 ―萎縮性腟炎―

回答者:  鳥取県立中央病院産婦人科部長 皆川幸久

質問

86歳、女性。現在、デイケアに通所しています。3ヵ月前から老人性腟炎で産科婦人科より1週間に1回腟座薬を頂いていますが、薬が切れかかると悪臭を伴う帯下(おりもの)があります。子宮癌の検査は異常ありませんでした。悪臭の原因は何なのか、また、このままの状態にしておいていいのか、お教えください。

回答

月経周期を有する女性の腟粘膜は卵巣ホルモンの作用でその厚みを保ち、また腟内は酸性に保たれ雑菌の繁殖が防止されます(腟の自浄作用)。閉経しますと、このホルモンの作用がなくなり、腟粘膜は萎縮し、腟内に雑菌の繁殖が生じやすい状態になります。これを萎縮性腟炎と呼びます。細菌感染を伴うことが多く、細菌の種類にもよりますが、通常は黄色の帯下(おりもの)を生じます。ご質問の悪臭の原因は細菌感染と思われます。オムツを使用中ですと、腟外に出た帯下にさらに感染を生じ、悪臭の原因となる場合もあります。その他、萎縮性腟炎では、腟粘膜の脆弱性による出血や尿道口周辺の炎症から膀胱炎の反復などがみられます。

この腟炎の診断は比較的容易ですが、高齢者では子宮頸管(子宮内部と出口の間の管)の狭小化によって、子宮留膿症(膿性帯下が子宮内に貯留)を生じることがあります。この場合、子宮癌(頸癌と体癌)を否定するための検査が必要です。ご質問には子宮癌の検査は異常が無いとのことですが、子宮留膿症は癌が無くても生じることがあり、難治性の帯下の原因となる可能性も有ります。経腟超音波などの検査を受けられることをお勧めします。

萎縮性腟炎の治療としては,腟粘膜の再生を促すために、女性ホルモンを含有した腟座薬を使用しますが、細菌感染の治療のため、抗生物質を含有した腟座薬を併用するのが普通です。ご質問の腟座薬がこの両方なのか一方なのかはわかりませんが、もし一方なら、両方を使用が必要です。高齢女性にとっても、婦人科診察は抵抗感の大きいものです。上述の悪性疾患と子宮留膿症が否定されていれば、短期間の女性ホルモンの内服で再燃を防ぐことも可能です。