健康なんでも相談室

胸部X線による肺癌検診 -肺癌の早期発見を目指して-

回答者:  鳥取大学医学部附属病院胸部外科 中村廣繁

質問

69歳、女性。町の行う基本健康診査で、「孤立性斑状影・左下肺野」の結果が出ました。病院で肺機能検査を行い、その後3ヵ月に1回検診を受けていますが、今年2月のCT検査で左下肺が黒く濃く写っていました。進行しているのではないかと思いましたが、服薬も治療もしていません。4月頃から左胸が重く、痛みを感じています。このままにしておいてよいかどうか、お伺いします。

回答

市町村による基本健康診査の中のうち、胸部X線検査は肺癌の早期発見を目指して行われます。その際、専門の医師が注意深く観察して異常陰影を発見するとその部位と特徴を記載します。異常陰影はさらに数名の医師による合同読影により、過去の胸部X線と比較されて精密検査が必要かどうか判定されます。今回問題となった「孤立斑状陰影・左下肺野」というのは、左肺の下の部位に“まだら模様”の淡い小陰影が単独で存在していることを意味します。以前にはなかったか、あるいはあったとしても変化してきたために精密検査が必要と判断されたと思います。一般に胸部X線で肺癌が最も疑われる陰影は「孤立結節陰影」という肺の中のかたまりを示す陰影です。斑状陰影の場合には肺の炎症性疾患と肺炎様の影を示す早期の肺癌との鑑別が必要になります(図をご参照下さい)。

精密検査の中で最も重要なのは胸部CTです。胸部CTで肺癌を疑う場合には、気管支鏡下生検、針生検などで確定診断を行います。しかし、肺癌を疑う所見に乏しい場合は多くの場合が経過観察で定期的に胸部CTを行うことになります。今回の場合、三ヶ月に1回の胸部CTで経過観察を行われたことになりますが、もし陰影が濃くなってきているとすれば、さらに上述した検査を進めるか、薬物治療を試みる場合もあります。

左胸が重く、痛むという所見は一般には早期の肺癌ではほとんどありません。炎症性肺疾患や進行癌でみられる所見ですが、原因不明やただ単に肋間神経痛による痛みのこともあります。胸部X線による肺癌健診では現在約2000人に1人、さらに要精密検査が必要とされた方の50人に1人くらいの割合で肺癌が発見されています。いたずらに心配する必要はありませんが、肺癌は早期発見が大切ですので、専門医療機関における的確な判断が重要であることは言うまでもありません。