健康なんでも相談室

老年期の妄想状態―家族の信頼関係を大切に―

回答者:  西部医師会員 浜崎 豊

質問

83歳の一人暮らしの実母の相談です。6、7年前から頭や顔に湿疹できて、皮膚科の治療を受けていますが良くなりません。本人は「頭にダニがいて、卵を産んで、顔に降りてきて気持ちが悪い」といい、日に何度も入浴し、長時間顔や頭を洗っています。皮膚科の先生は「ダニではなく、単なる湿疹です、顔の洗いすぎでよけいわるくなるのです」と言われますが本人は頑として、あちこちの皮膚科を受診します。心療内科の受診は拒否します。どうしたらいいでしょうか。

回答

主症状は妄想と体感幻覚のようです。診断的には、①老年期に発症した皮膚寄生虫妄想、②認知症の周辺症状としての幻覚妄想、③老年期のうつ病に伴う妄想状態などが考えられます。また一人暮らしの孤独や老化に伴う性格変化などが深く関係していると思います。

治療としてはまず身近な家族の方がご本人(以下Aさんとします)と信頼関係を取り戻すことが大事です。そのためには、「頭にダニがいる」というAさんの訴えを、あたまから否定せず、耳を傾けることが大事です。Aさんはダニに頭を巣食われるほどの苦しみを感じて、その苦しみを分かって欲しと訴えている、と考えましょう。つまりこのダニは孤立無援の孤独地獄にいるAさんの唯一の現実との通路かもしれないのです。「今日はダニはどう?」といった気軽な会話を通じて信頼関係を回復できればと思います。そうしながら、ダニ以外の不安・不眠・心身衰弱のような症状もあるに違いないので、それらも話題にして、精神科・心療内科の受診を促してみてはどうでしょう。その際、Aさん本人の受診の前に家族が受診して、医師に事情をよく説明しておいたほうがいいと思います。可能なら往診をお願いするのもいいでしょう。そして薬を飲まれるようになれば状態はうんと変わってくると思います。今後、増加が予測されるとても大切なケースだと思います。