健康なんでも相談室

甲状腺と副甲状腺全摘後体調がすぐれない-適切な補充療法を継続的に-

回答者:  鳥取大学医学部病態情報内科学(第一内科) 重政千秋

質問

70歳代後半の女性。14年前に甲状腺と副甲状腺の全摘を受けました。その後治療を受けていますが、最近体調が悪く、この3年位は宙に浮くような「めまい」感があり、急に立ち上がることが出来ません。血圧は高い方(160-80mmHg前後)で、時に180-90mmHgになることがあり、その時は身体が振えるような感じがします。以前の手術と関係があるのでしょうか。

回答

甲状腺と副甲状腺全摘が事実としますと、甲状腺機能低下症と副甲状腺機能低下症の状態と言えます。前者の程度は遊離サイロキシン(T4)濃度低下と甲状腺刺激ホルモン(TSH)上昇をもって判定します。T4製剤(チラージン-S)で補充しますが、その至適量(125μg/日前後)はTSHが基準値(0.1~4.0μU/ml)内にあるかどうかで容易に決定できます。甲状腺機能低下症が存在しますと「身体がだるい」、「寒がり」、「汗が少ない」、「身体が腫れる」、「気分が沈む」、「動きたくない」などの症状とともに血中総コレステロールが高くなり、動脈硬化症が助長されます。また血圧も少し上昇する可能性があります。一方後者が存在しますと、副甲状腺ホルモン欠乏により、血中カルシウム(Ca)が低下し、リン(p)が高くなり、「四肢末端のしびれ」、や「手足が突っ張る」などの症状が出現します。治療としてはCa製剤と現在服用されているα-D3という活性型ビタミンD3を用います。α-D3の至適投与量は(副甲状腺全摘の場合α-D3は少なくとも3μg/日が必要です)は血中Ca濃度(基準値8.6~10.5mg/dl)が9.0mg/dl前後になることを目安とします。

現在の症状が以前の手術と関連するかどうかの判定にはもう少し詳細な情報が必要です。既に治療を受けておられますが、補充量が適切であるかどうかはよくご相談下さい。ただ甲状腺機能低下症の特にご高齢の患者様としてご注意いただきたいことは、勝手に休薬して、休薬前の補充量を急に再開しますと心血管系に強い負担がかかり、血圧が大きく変動したり、狭心症や心不全の発症の誘因となることです。

血圧が高いとのことですが、家庭での血圧も高いのでしょうか?家庭血圧が正常でも、病院で測るといつも高いという「白衣性高血圧」が存在します。降圧薬が投与されていないようですが、その可能性を考えた上でのことかも知れません。尚、高齢者では稀ですが、「頭痛」、「身体の振るえ」、「冷汗」とともに血圧が急に上昇する副腎の病気も存在します。術後状態のことも含め、一度内分泌専門医にご相談下さい。