健康なんでも相談室

独居の母親が初期アルツハイマーと診断された

回答者:  鳥取県医師会常任理事 渡辺 憲

質問

40台後半女性。結婚して郡部に住んでいますが、鳥取市内に独居の77歳の母親が最近物忘れがひどく、病院を受診したところ、アルツハイマー病の初期と診断されました。治療法または進行を予防する方法はあるでしょうか?

回答

現在、わが国では、軽症の方も含めて65歳以上の人口の4~6%に痴呆症が現われると言われており、中でも最も数が多いのがアルツハイマー型痴呆症(DAT)です。以前は、痴呆症は診断がついても、治療法がないとされおりましたが、数年前から、認知・記銘力を高める薬剤「塩酸ドネペジル」がDATの治療薬として初めて認可され、繁用されるようになってきました。ただし、この薬は、病気そのものの進行を抑える力がなく、何年かのうちには、ゆっくり病状が進んでしまうことは避けられません。しかし、認知・記銘力が一時的にでも改善したとすると、この間に、活発な社会活動(脳の活性化)を行うことで、神経細胞の崩壊をある程度遅らせることが分かってきています。

最近のDAT研究は目覚しく、脳の神経細胞にβアミロイド蛋白(Aβ)という物質が異常に蓄積することがDATの発病に密接に関係することが分かってきました。このAβが脳の中に蓄積するのを防ぐような薬、また、蓄積したAβを取り除くような治療法(一種のワクチン療法)について、わが国を始め、世界各国で着実に研究成果が上がっており、近い将来DATの根本的治療に結びつく可能性が出てきました。

お母様には、残念ながら、これらの根治療法は完成されていないため使用できませんが、病状はまだ初期ということで、現在ある治療薬を用いながら、心身ともに活発な活動性を維持しながら毎日の生活を送っていただき、健康な神経細胞を少しでも長持ちさせることが重要です。そのためには、独居で孤立しやすいため、頻繁に訪問してあげたり、地元の老人クラブ、デイケアなどへ参加してもらい、心に良い刺激を与え続けることが大切です。