６０歳代前半の男性。昨年定年退職をして、今は家でゆっくり過ごしていますが、最近、よく物忘れをするようになりました。痴呆症が始まっているのではと不安です。また、アルツハイマー型の痴呆症に有効な治療薬が開発されたと聞きましたが、どのようなものでしょうか？
ご質問の「物忘れ」のみでは、痴呆症かどうか判断することはできません。物忘れの内容、進行性の経過かどうかが重要です。「人、物の名前が出てこない」レベルの物忘れは、痴呆症ではないことが多いです。出来事の全体を忘れてしまうことがあれば、痴呆症を疑わざるを得ません。また、うつ病を基盤として物忘れが目立つことがあります。「うつ病性仮性痴呆」と呼んだりしますが、この場合、うつ病を治療することにより、物忘れは改善します。小さな脳梗塞を繰り返すことで、うつ症状と物忘れが現れることもあります。症状が持続するようでしたら、一度、専門医の診察をお勧めします。
アルツハイマー型痴呆は、脳の画像診断の進歩でＭＲＩならびに脳血流画像（ＳＰＥＣＴ）により、症状経過と専門的心理検査の情報と併せて、かなり早期に診断が可能となってきました。早期診断により、早期治療が可能となりますが、現在はまだ、症状（記憶･認知障害）の改善を目的とした治療薬のみですが、近い将来、より病気の原因を抑える治療薬が開発される見通しです。後者には、アルツハイマー病における神経細胞障害の原因とされているアミロイドβタンパク（Ａβ）の異常な産生を抑える薬、Ａβの分解を促進する薬、脳内に蓄積したＡβを免疫システムを用いて取り除く経口抗アミロイドワクチン療法などがあり、現在、治療薬としての有効性、安全性についての研究が急速に進みつつあります。これらの進展に期待が寄せられています。