保健の窓

21世紀の医療「再生医療の現在と未来を探る」

鳥取大学大学院医学系研究科 再生医療学 久留一郎

再生医療の可能性  あらゆる臨床の場で応用

幹(かん)細胞という色々な種類の細胞に変化出来る細胞が私たちの体の中、特に骨髄や脂肪組織に多く存在することが今世紀に入って知られるようになりました。この細胞を利用して病気を治療しようという再生医療が医療現場で試みられています。具体的にはこれまでの薬物治療や手術治療が効かない人に、体の中にある幹細胞を取り出して、自分の病気の部分に移植して血管や神経、肝臓や心臓の細胞を新たに再生して治療しようというものです。しかも自分の幹細胞を自分に移植するので拒絶反応という副作用は起きず安全性が高いのです。

例えば、動脈硬化の為に足の血管が詰まってしまい、血液循環が悪くなり足の激しい痛みや潰瘍(かいよう)が出来てしまう患者さんで薬剤や手術を用いた治療が効かない場合に血管再生治療が行われ、症状の改善や足の切断を減らすことが出来ています。心筋梗塞や狭心症という心臓の血管の動脈硬化により生じる病気にも効果があることも報告されています。そのほかにこの幹細胞を用いた再生医療は骨・軟骨病、歯周病、肝臓病や角膜疾患などにも臨床の場で応用されています。

万能細胞で再生医療 期待される未来の医療

全ての細胞に変化出来る万能細胞は、クローン人間が作成できることで話題になりました。この万能細胞には受精卵を利用して作られる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)と成人の細胞に遺伝子を処理することで作られる人工多能性幹細胞(iPS細胞)があります。特にiPS細胞はヒトの皮膚や血液の細胞から作ることが出来るので、倫理的な問題がなく広く応用が来たされています。万能細胞は個体をも作れますので、試験管の中で色々な細胞に変化させて、例えば心臓の細胞を作り出して心臓病の方に移植すれば心臓の再生治療が可能となります。万能細胞は試験管の中でいくらでも増やすことが出来るので、治療の為の細胞を大量に供給できるようになることが期待されます。一人一人の患者さんの万能細胞を作るには時間と費用が必要です。

そこで、この万能細胞をより多くの人に即座に使用するために、血液銀行のように、万能細胞バンクが作られようとしています。200種類の万能細胞を作ると日本人の80%の方に万能細胞から作られた細胞を拒絶反応なく移植できます。さて将来は万能細胞から作られた臓器を移植医療に用い得る時代が来ることも夢では無いかも知れません。