保健の窓

新しい認知症観

社会医療法人仁厚会 医療福祉センター倉吉病院 院長 兼子幸一

 

 

 2024年5月に公表された厚生労働省研究班の報告で、65歳以上の高齢者の認知症の有病率は12.3%、認知症の予備段階とされる軽度認知障害の有病率は15.5%と推定されています。合わせて1千万人超の高齢者に認知機能の問題があることになります。

 認知症の主症状は大別すると、①認知機能障害=もの忘れや複数の手順を求められる仕事や家事ができなくなる、迷子になるなど ②行動心理症状=興奮や怒りっぽさ、もの取られ妄想、自発性の低下などに大別されます。

 認知症はさまざまな脳の病気の結果として起こり、全体の約3分の2は脳の神経細胞が脱落していくアルツハイマー型認知症、約20%は脳梗塞等による血管性認知症と推定されます。従って多くの場合、症状の一時的な抑制には有効な抗認知症薬でも、元の健康状態を取り戻すことは困難になります。そのため、予防対策に皆が取り組み、認知症発症のリスク因子の影響を下げることが大切です。

 普段の生活でできる取り組みとして、炭水化物の多い高カロリー食、低タンパク食、極端な高脂肪食や低脂肪食の回避、適度な運動や睡眠、囲碁や演劇鑑賞などの知的活動、友人と会うなどの社会的活動等が知られています。また、2024年12月に発表された国の認知症施策推進基本計画では、認知症を発症しても友人や社会とのつながりを維持しながら、その人らしく希望を持って生きられる社会づくりを国の方向性としています。

 認知症になると何もできなくなるという見方を変え、他の障害の場合と同様に、認知症がある人が生きがいや希望を持ちながら、自分らしく生きるという「新しい認知症観」に立つことの意味をわれわれ一人一人が考えることが求められています。