日本における成人における慢性咳嗽有症率は2.89%で、慢性咳嗽患者数は約300万人と推計されていて、プライマリ・ケアの外来では大変多い疾患です。そのうち咳について医師に相談したことがある慢性咳嗽患者は全体の半数以下(44%)で、16%の患者が治療に満足していないとの調査があります。
慢性咳嗽は咳に伴う多くの苦痛、例えば労働生産性の低下、疼痛、尿失禁、睡眠障害、抑うつ・不安などの合併症が報告されており、患者の生活全般に多くの影響を及ぼす疾患であると考えられます。
咳は、持続する期間によって主に三つに分類されます。咳が出るようになって3週間未満持続する状態を急性咳嗽、3〜8週間持続する状態を遷延性咳嗽、8週間以上持続する状態を慢性咳嗽と呼びます。
一般的に急性咳嗽の多くは、ウイルスなどの感染症による咳が長引くこと(感染後咳嗽)が原因です。感染後、咳嗽は2~3週間程度で自然と治まることが多いです。喫煙は咳を悪化させるため、治療する上で禁煙は必須です。
遷延性・慢性咳嗽患者の原因疾患はさまざまで、代表的なものとして咳ぜんそく、胃食道逆流症、上気道咳症候群があり、しばしば治療を行い、有効であれば診断する方法(治療的診断)をとります。それ以外にも肺がんや間質性肺炎など放置できない疾患も隠れています。
また、多くの患者で複数の疾患が併存しており、内訳は咳ぜんそく、または胃食道逆流症の両方もしくはいずれかの関与がみられ、咳がなかなか止まらず治療を複雑にしています。
3週間を越えて咳が長引く場合、または過去に咳が長引いた経験がある方は、呼吸器内科専門医での診察を勧めます。