保健の窓

糖尿病のあんな話、こんな話

鳥取県立中央病院 糖尿病・内分泌・代謝内科 楢﨑晃史

~糖尿病がある人、ない人~ 

 

 日本糖尿病学会は、糖尿病治療の目標として「糖尿病がない人と変わらない生活の質(Quality of Life=QOL)と寿命を実現すること」を掲げています。

 糖尿病がある人と、糖尿病がない人とでは何が違うのでしょう。糖尿病は、「インスリン」という体内でエネルギーの流れを制御する物質の作用が不足することで生じる慢性的な血糖値の上昇が本態だとされています。インスリンを出す力には個人差がありますが、日本人はインスリンを出す力が弱い体質の民族で、加齢とともにインスリンを出す力が衰え、体内のインスリンは減ってきます。これを自助努力で是正するのは困難です。

 厚生労働省の報告では「糖尿病が強く疑われる人」は加齢とともに増加し、70歳以上の男性で26.4%、女性で19.6%とされています。そういう意味で糖尿病は加齢とともに発症し、進行する病気とも言えます。

 ところが、糖尿病は「生活習慣病」と位置付けられているため、「生活習慣に問題があるから糖尿病になったのではないか」「生活習慣に問題があるから治療がうまくいかないのではないか」という偏見を持たれがちです。このような偏見から負のレッテルを貼られてしまい、不利益が生じることを「スティグマ」と言います。

 糖尿病がある人が、糖尿病がない人と変わらないQOLを確保するためには、このスティグマを取り除くことも重要になります。昨年9月に日本糖尿病学会と日本糖尿病協会から糖尿病の新たな呼称として「ダイアベティス」が提案されましたが、これも糖尿病という病名そのものがスティグマの源泉になっている可能性を考えてのことでした。糖尿病のことを虚心坦懐に見直してみると、糖尿病との付き合い方がちょっぴり変わってくるかもしれません。