保健の窓

再生医療の来し方行く末

鳥取大学医学部再生医療学分野 特任教授 汐田剛史

~再生医療が拓く新たな医療~

 

 私が医師となって初めて看取った患者さんは劇症肝炎の方でした。肝臓がその旺盛な再生能力を失えば、急速に肝不全に陥るこの疾患の衝撃は強く、いつか治療法を開発したいと思いました。1987年に発見された強力な増殖因子である肝細胞増殖因子(HGF)に私は強い関心を抱き、1989年の大阪大学中村敏一教授によるHGF遺伝子単離の報告を受け、当時留学中の私は意を決して手紙を書き、HGF遺伝子をお送り頂きました。

 私の興味はHGFが試験管内の肝細胞の増殖のみでなく、真に生体の肝臓再生を促すかという点にあり、HGFを多量に産生する遺伝子改変マウスを作製し、HGFが生体の肝臓再生を促すことを報告しました。これが私の最初の再生医療研究で、当時は「再生医療」という言葉もなく、再生医療の黎明期でした。再生医療の研究者として、その歩みを振り返り、新たな医療への貢献を思い描いています。

 2007年京都大学の山中伸弥教授は皮膚細胞からヒトiPS細胞を樹立しました。分化細胞を受精卵の状態に戻すことを初期化と言い、たった4個の遺伝子で初期化を可能とした発見に驚天動地の思いでした。当時私はiPS細胞を思うと体中が熱くなり高揚した気分となったものです。iPS細胞は、神経、眼、心臓の疾患の治療応用が期待されます。再生医療は難治性疾患や希少(きしょう)疾患などの有効な治療法のないアンメット・メディカル・ニーズの疾患を治療対象とすべきで、再生医療は実用化の時代に突入しました。

 我々が開発した肝疾患治療用細胞シートはアンメット・メディカル・ニーズの非代償性肝硬変への臨床試験へ向け鋭意準備中です。再生医療が有効な治療法のない疾患に苦しむ方々の福音となることを祈っています。