保健の窓

健康寿命を延ばすための高血圧管理

山陰労災病院 第三循環器科 部長 水田栄之助

高血圧は静かな殺し屋

 日本は世界有数の長寿国ですが、それは本当に喜ばしいことなのでしょうか?介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる期間を示す「健康寿命」は2016年現在、男性72.14歳・女性74.79歳です。平均寿命と健康寿命の差は男性8.84年・女性12.35年もあり、長期間日本人は介護を受けながら生きているのです。健康寿命を延ばすことは、国の最重要課題と言われており、要介護の最大の原因である脳卒中を引き起こすのは高血圧です。

高血圧患者は現在国内に約4300万人も存在します。しかし適切に降圧できている患者はその4分の1しかいません。高血圧は症状がほとんどなく、症状が出るときは脳卒中・心臓病を起こし死ぬか寝たきりになる時です。健診で上の血圧(収縮期血圧)が130 mmHg以上、または下の血圧(拡張期血圧)が80mmHg以上を指摘された時は、症状の有無に関わらず、近くの医療機関を受診しましょう。特に若いうちから高血圧対策を行うことは最も有効な寝たきり・認知症対策です。

 

 

塩と降圧薬について

 高血圧を発症・進展させないためには何よりも減塩が必要です。日本人の1日平均食塩摂取量は2016年現在男性10.8g・女性9.2gであり、高血圧患者は1日6g未満が推奨されています。しかし、しょうゆ・みそ・漬けものをゼロにしても実は食塩を4割しか減らすことができません。加工食品、外食・中食から摂取される食塩が半分以上を占めており、普段から減塩に気をつけた加工食品を選ぶことが大切です。うま味などを生かして「美味しく」減塩することが減塩を長く続ける秘訣です。

減塩・運動することで約10-15 mmHg程度降圧できますが、それでも130/80 mmHg未満を達成できない場合は降圧薬が必要です。高血圧は生活習慣病の1つと言われていますが、遺伝要素がかなり強い病気です。片方の親が高血圧である場合、その子供の約3割は食事・運動に気をつけていても将来高血圧になる運命にあります。降圧薬は高血圧そのものを治す薬ではありません。痛み止めと同様、薬が効いているときだけ血圧を下げます。高血圧は症状がほとんどありません。症状の有無に関わらず毎日かかさず降圧薬を服用することが大切です。