保健の窓

老年期の「脳」と「こころ」~うつ病と認知症~

倉吉病院 副院長 松村博史

気づき難い老年期うつ

  社会は「人生100年時代」とも呼ばれる高齢化の一途を辿っており,我々はその長き人生を,健康に,その人がその人らしく在る在り方で過ごせることが求められていると思います.

 一方で, 老年期というライフステージは,健康の喪失,配偶者や知人の喪失,役割の喪失,など複数の喪失感を体験することになる時期です.喪失はとても大きなストレスであり,「こころ」や「脳」を疲れさせ,いわゆる「うつ病」につながることがあります.

「うつ病」はその名を広く知られていますが,その発病には気づくのが難しい場合があります.特に,老年期のうつ病は,うつ症状(落ち込んでいる感じ,気力がない感じなど)が表に現れにくいことも多いと言われています.それなのに,若い人のうつ病よりも重くなりやすく,自殺に至る危険性も高いと言われています.一方で,不安感や原因がはっきりしない身体の苦しさが目立ちやすい症状だと言われています.はっきりした診断がつかないまま,苦しんでおられるご高齢者の方は珍しくありません.

老年期を,健康に,その人らしい在り方で過ごして頂くためには,老年期うつ病についてよく知っておく必要があると考えています. 

 

物忘れと認知症

 老年期の「脳」と「こころ」を考えるとき,「うつ病」と並び,「認知症」が重要です.「認知症」と聞くと,「物忘れ」を連想される方が多いと思いますが,これらをどう理解したら良いのでしょうか.

「物忘れ」は,年齢に応じて多かれ少なかれ現れます.健康な物忘れの場合,多少頻度が増えても単純な記憶の問題にとどまります.一方,認知症の物忘れは,それを超えて,理解・判断力が落ち,生活動作(食事,排泄,入浴など)がうまくできなくなり,時に感情の乱れが生じ,生活への支障が大きくなっていきます.

「認知症」は,上記のような経過をたどる「アルツハイマー型認知症」が最多ですが,幻(人や動物)が見えたり,身体の震えや固さを伴ったり,時間によって認知の度合いが変わったり,睡眠中の大きな寝言や身体の動きを伴うことがある,「レビー小体型認知症」もあります.脳卒中の後に脳の働きが低下して発症する「脳血管性認知症」もあります.いずれも珍しい病気ではありません.

食事,運動など身近な生活習慣の改善が,認知症の予防に効果的であると言われています.認知症の症状や予防について,理解を深めてみてはどうでしょうか.