保健の窓

2型糖尿病についての最近の知見

鳥取県医師会監事 天野道麿

 

わが国の糖尿病患者数は1970年代以降急増して、1998年には糖尿病患者数690万人、予備群680万人となっています。その原因として食習慣の欧米化、特に脂肪摂取量の増加と消費エネルギーの減少(運動不足)があげられています。

わが国の糖尿病の95%以上は2型糖尿病に分類されます。その発症には遺伝素因と環境因子が共に重要な役割を演じ、インスリン作用不足はインスリン分泌の低下とインスリン感受性の低下が種々の程度に組み合わさって起こります。日本人のインスリン分泌代償能は欧米人に比べ低く、早期にこの代償能が破綻するため、インスリン作用不足に陥り糖尿病を発症します。

日本糖尿病学会は1999年5月に糖尿病の診断基準を17年ぶりに改訂しました。日本人では空腹時血糖値があまり高くなくて2時間血糖値が高いという糖尿病が多いようで、軽症糖尿病を見逃さないためには糖負荷試験が必要です。ブドウ糖負荷時の2時間血糖値と食後2時間血糖値はよく相関しています。ブドウ糖負荷試験で1時間値180mg/dl以上または2時間値170mg/dl以上の場合は糖尿病への移行が多く見られます。また、2時間値140mg/dl以上、高インスリン反応群では動脈硬化が促進されます。動脈硬化促進因子としては高血圧、高コレステロール血症、高中性脂肪血症、高血糖、ブドウ糖負荷試験におけるインスリン分泌の総量の増加等が考えられています。

グリコヘモグロビン(HbA1c)に関しては、ブドウ糖負荷試験で正常型、境界型では6.5%を超えるものは非常に少ないことがわかったので6.5%以上を糖尿病の診断基準としました。

新診断基準に応じた治療では境界型、糖尿病型はよく移行するので境界型の時期から食事療法、運動療法(一日平均歩数1万歩未満群と1万歩以上群ではインスリン感受性に差が認められる)は開始されるべきであります。空腹時血糖値が140mg/dlを超えるとブドウ糖毒性となり、空腹時インスリン分泌が低下してくるので、高血糖を正常化する努力をしなければいけません。

糖尿病の治療については、食後の高血糖に十分に対応することが重要です。この時期を放置すると基礎インスリン分泌の低下インスリン抵抗性も重なり、空腹時血糖値が高くなります。

インスリン初期分泌低下とそれに伴う食後高血糖の時期には、α‐グルコシダーゼ阻害剤や速効型インスリン分泌促進剤が適応となります。また、空腹時高血糖に対してはSU剤やビグアナイド剤、インスリン抵抗性改善剤を用います。しかし空腹時血糖を良くしてもインスリン初期分泌低下は残りますので、食後高血糖は残ります。このような場合、α‐グルコシダーゼ阻害剤等を併用して食後高血糖をとることは、糖尿病自体を進行させないためにも大切です。

インスリン治療に関しては、遺伝子工学の進歩により、インスリンのアミノ酸の一部を置き換えた超速効型アナログインスリンが近々発売予定で、治療の幅が拡がります。

コントロールの目標としては日本糖尿病学会では、空腹時血糖値120mg/dl未満、食後2時間血糖値170mg/dl未満、HbA1c6.5%以下を「良」と設定しています。