保健の窓

高齢者の骨折-特徴と予防について-

鳥取赤十字第一整形外科部長 福島 明

 

日本は世界一の長寿国であり、今後ますます高齢者が全人口に占める割合が増加することが確実視され、医療面においても種々の対策が実行されようとしている。

高齢者の骨折件数も増加傾向にあり、近年、その治療だけでなく予防にも力が入れられるようになった。今回は高齢者の骨折の大部分を占める、脊椎圧迫骨折、大腿骨近位部骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位部骨折の特徴、治療、予防について述べる。これらの骨折はいずれも骨粗鬆症や高齢による筋力低下、運動機能の低下とともに、痴呆、めまいや視力障害、脳血管障害、鎮痛剤、睡眠剤の常用といった複数の要因が絡み合って発生することが多く、その治療には整形外科だけでなく内科、神経内科、眼科、耳鼻科などの専門医との連携が必要なことが多い。つぎに各骨折について述べる。

1.脊椎圧迫骨折

転落、転倒などの外傷によるものと、はっきりした外傷がなく徐々に腰背痛をきたすものがある。X線検査で脊椎椎体の圧迫変形が認められる。症状は腰背痛のため寝起きや立座りが困難となる。痛みの強い時期は安静、鎮痛剤、注射、コルセットなどで加療し徐々に起立歩行を行う。骨粗鬆症が基盤になって発症するためその治療も必要となる。骨折のため脊髄の症状が認められれば手術が必要となるがまれである。

2.大腿骨近位部骨折

女性に多い。転倒で発生することがほとんどである。股関節部の疼痛のため起立、歩行が困難となる。手術的治療が原則であるが、内科的合併症など全身状態により非手術的治療が選択されることもある。

3.上腕骨近位部骨折

最近女性に増えている骨折で、やはり転倒受傷が多い。肩、上腕の痛み、腫れが出現する。ずれのない骨折はバンドや三角布で固定したり、上腕から手までのギプスによる整復により治療し、ずれの大きい骨折や脱臼を伴う場合は手術的治療を行う。

4.橈骨遠位部骨折

手関節部の骨折で手をついて転倒し発生する。手関節部の痛み、腫れが出現し、手がつけない、物が持てないなどの不自由がでる。大部分はギプス固定で治るが、整復が困難で不安定な場合は手術となる。

以上、高齢者の骨折の中で多いものを列挙したが、その受傷機転は転倒が大部分で、また骨粗鬆症を基盤としていることが特徴である。骨折の予防としては転倒防止が重要である。前回述べた各種合併症の治療を正しく行うとともに、居住環境としては階段や段差をなくしたり、歩く所や滑りやすい所に手すりをつけたり、カーペットやじゅうたんを敷いてクッション作用をもたせたり、夜間はトイレまでの廊下にあかりをつける必要がある。

眠剤服用後は室内でポータブルトイレを使うようにして、転倒の予防を行うことが重要である。また軽い体操や歩くことにより、筋力をつけるとともに、高齢のため低下している運動器系、神経系の機能の回復をはかることも重要である。骨粗鬆症の予防は若い時期からの努力が必要であるが、高齢者も薬物治療とともに食事や運動、日光浴などの心がけが必要である。