保健の窓

高齢者の頸椎疾患について

鳥取県立中央病院整形外科 村田雅明

物理治療や体操、手術が有効

加齢とともに骨軟骨の変性が進行することにより、様々な運動器疾患が生じます。頸椎では頸椎椎間板ヘルニアや変形性頸椎症などがその代表です。それらによって生じる症状としては筋肉系の症状として頚部から肩甲骨部の痛み(いわゆる肩こりに近いようなもの)、脊髄の神経の枝(神経根)が圧迫されることによる上肢の痛みやしびれ、脊髄の本幹が障害されることによる上下肢のしびれや手指の運動障害、歩行障害などがあります。そのほかに頭の方に行く血管(椎骨動脈)が圧迫されることによるめまいや、狭心症に似た胸部痛など特殊な症状もあります。

筋肉系の痛みに対しては内服治療、牽引などの物理療法などですが、ストレッチ体操なども有効です。また普段の姿勢も非常に大切です。神経根の圧迫症状に対しては内服、物理療法に加え、神経ブロックが有効です。それらで効果がなかったり、神経麻痺が出た場合には手術が必要となることもあります。脊髄の本幹が障害された場合には基本的には手術が必要です。脊髄の手術、特に頚椎と聞けば怖いと感じる方が多いと思いますが、実際にはそのような手術をされる患者さんは全国的にも非常に多く、非常に効果のある手術です。

普通の姿勢 ただして予防

高齢者の頚椎疾患でもうひとつ重要なものとして非骨傷性頚髄損傷があります。これはどういうことかと言いますと、日本人はもともと脊髄の入っている骨の管、これを脊柱管といいますが、この脊柱管が比較的狭い人が多いと言われています。そのような人が転倒して前額部、いわゆる“おでこ”を打ちますと、それほど強く打たなくても頚椎が過伸展し、それによって脊髄が損傷されることがあります。多くは軽い麻痺であったり、徐々に回復してくることが多いのですが、中には重篤な麻痺を遺残することもあり、転倒には十分な注意が必要です。最後になりましたが、頚椎に限らず、脊椎疾患全体に言えることですが、治療よりも予防が重要であるということです。

さらに予防において最も重要なことは普段の姿勢です。加齢とともに脊柱起立筋(いわゆる背筋)が弱くなり、どうしても背中が丸くなります。背中が曲がってくると腰は当然痛くなりますし、股関節や膝にも負担がかかります。頚椎にも負担がかかり頚部の痛みが慢性化していきます。したがって背中が曲がらないように、背筋の筋力を維持しなければいけません。そのためには普段から姿勢をよくするということがとても大切です。