保健の窓

高齢者の冬季における健康管理

鳥取県医師会常任理事 天野道麿

 

高齢者の体の特性は、若い頃に比較して体の中の脂肪分の占める割合が増加し、筋肉、内臓などの萎縮が進み、体の細胞数が減ります。環境の変化に順応しにくく、種々の生理的機能が低下します。また、生活習慣病(高血圧、高脂血症、糖尿病など)が増加してきて、動脈硬化症が促進されます。

平成14年度の鳥取県の基本健診の結果をみますと、男性では60歳代以降で高血圧がトップで、女性では50歳代以降で高血圧が2位となっています。このように、特に男性の高齢者では高血圧の比率が高くなっています。これからの寒い時期においては、高血圧の方はさらに血圧が高くなりやすいので要注意です。

寒い冬に防寒をせずに外出したりすると、交感神経系が刺激されて、血管が収縮し血圧が上がります。家の中でも、急激な温度変化は危険です。例えば、トイレ、風呂の脱衣場など、気温が低い所は要注意です。暖房をして下さい。

また、最近注目されているのが早朝高血圧です。朝起きると交感神経系の亢進と昇圧ホルモンの増加によって血圧が上昇します。最近の研究結果では、午前6時から午前8時ごろにかけて、脳梗塞、心筋梗塞が多発しており、早朝高血圧との関連で注目されています。これからの寒い時期では、特に要注意です。家庭で早朝の血圧を測定してみて下さい。

入浴に関しては、高齢者の方は温度感覚が鈍くなり、高温湯(42℃以上)に平気で入れるようになり、高温湯を好むような方があります。しかし高温湯は血圧上昇や血液粘度の上昇を招き、血圧の変動を激しくします。微温湯(39℃未満)の反復入浴は体の保温効果がありお薦めです。入浴後は血液粘度が上がっていますので、水分を十分に補給して下さい。

寒い時期になると、感冒、インフルエンザ、気管支炎、肺炎などの呼吸器疾患が増加します。今冬、世間で新型肺炎と呼ばれている重症急性呼吸器症候群(SARS)の再燃への懸念が世界的に高まっています。新型肺炎と初期症状が似ているインフルエンザが同時に流行した場合、医療現場に混乱が生じることも考えられます。今冬における感染症対策のポイントはインフルエンザです。

インフルエンザはインフルエンザウイルス(A型、B型、C型)の感染により発症します。のどに付着して20分で細胞内に入り、8時間で増殖します。インフルエンザの症状は、突発的な高熱(38~39℃)、のどの痛み、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感などです。発症後3日間は感染力が強く、空気感染により他の人に感染し易いです。

インフルエンザの予防としては、一般的な予防とワクチンによる予防があります。厚生労働省はインフルエンザの予防接種を推奨しており、製薬会社も本年度は、1,470万本のワクチンを製造しています。日本医師会は65歳以上の高齢者の接種率70%を目標にしています。(平成14年度は35.3%)

一般的な予防としては、十分な栄養と休養、石鹸による手洗い、うがいなどがあります。また、インフルエンザウイルスは空気が乾燥した状態に強いですので、室内を適切な湿度に保って下さい。

インフルエンザワクチンを接種して効果が発現するのに2週間かかり、効果があるのは5ヶ月間です。従ってワクチンの接種は10月下旬から12月中旬頃までに行って下さい。65歳以上の高齢者、気管支喘息、肺結核、糖尿病、心疾患、腎疾患を有する方はインフルエンザに罹患した場合に重症化する高危険群ですので、特にインフルエンザの予防接種が勧められます。インフルエンザの予防接種をしていれば、インフルエンザに罹患しないで済むか、もし罹患しても軽く済みます。予防に優れる治療法はありません。