保健の窓

高齢者に多い皮膚病

鳥取大学医学部感覚運動医学講座 皮膚病態学分野講師 山田七子

 

秋から冬にかけて、外気が乾燥し、暖房器具による湿度の低下がおこりやすい時期になると、高齢者の皮膚には乾燥によるかゆみが起こりやすくなります。これを老人性乾皮症(かんぴしょう)と言います。この、加齢による皮膚の乾燥の原因はなんでしょうか?

私たちの皮膚には、本来、乾燥を防ぐための構造や働きが備わっています。皮膚の一番外側には、角層と呼ばれる角質(かくしつ)細胞(さいぼう)が何層にも重なった層があります。この角質細胞同士の隙間には「細胞間脂質(さいぼうかんししつ)=セラミドやコレステロール、脂肪酸」という物質があり、角質細胞の中の「天然保湿因子」とともに皮膚の水分維持に大きな役割を果たしています。さらに、毛穴に開く皮脂(ひし)腺(せん)から分泌された「皮脂」が膜を作って角層の表面を覆うことにより、皮膚の内側から水分が逃げていくのを防ぎ、皮膚の表面に水分を引きとめる役割をしています。ところが、年をとると、これらの成分がいずれも減少します。皮脂の分泌だけに注目すると、男性では50代から減り始めますが、女性では40代(早い人では30代)から減少し始めます。老人性乾皮症では、皮膚の乾燥は皮脂分泌の少ない背中の下の方から腰部にかけてと、むこうずね(下腿伸側)が最も乾燥しやすく、次いで肩、太もも、腕にも症状が出ます。乾燥した皮膚では、乾燥していない時と比べるとわずかな刺激でかゆみが起こりやすく、かゆみは入浴や寝床で暖まると強く感じられます。また皮膚の表面には細かいひび割れができたようになります。

老人性乾皮症の対策には水分の蒸発を防ぐワセリンのような油脂剤や角層に水分を補給するクリーム・乳液・ローションの保湿剤が効果的です。さらに、1)脱脂力の少ない洗浄剤を使う2)入浴はぬるめのお湯で3)ナイロンタオルや硬いスポンジでごしごしこすらないことにも気をつけて下さい。ただし、足白癬(みずむし)のある人は、足や趾間(しかん)はしっかり洗って下さい。また、頭や顔の皮脂分泌の多いところは、洗浄を控えるのではなく、洗浄剤でていねいに洗うことが必要な場合もあります。

かゆみのために皮膚を引っ掻くと、引っ掻くことによる皮膚炎や、角層が破壊されることにより刺激物質やアレルギーの原因物質が外から侵入しやすくなることで炎症がおこり、ひび割れにそって赤くなり、湿疹の状態になります。これが皮脂欠乏性皮膚炎です。湿疹がひどくなると、保湿剤だけでは炎症を抑えることができず、ステロイド外用剤が必要になります。


 

年を重ねると、皮膚にはシワや弛み(たるみ)だけでなく、いろいろな“できもの(腫瘍(しゅよう))”ができてきます。正常皮膚の加齢そのものが原因と考えられる良性の腫瘍で、最もよく見られるのは「老人性疣贅(ゆうぜい)(イボ)」あるいは「脂漏性(しろうせい)角化症(かくかしょう)」と呼ばれる腫瘍です。皮膚と同じ色のものや、茶色のもの、ボタンを置いたような形の黒色のものがあります。腫瘍そのものは良性ですが、この腫瘍が急速に多発した場合には、注意が必要です。内臓に悪性腫瘍(特に胃癌)ができていることがあるからです。

長期に紫外線をあびた顔や、手背や前腕の皮膚には茶色の大きな色素斑ができます。これは老人性色素斑と呼ばれ、良性の疾患ですが、同じような茶色の色素斑に見えても、少し赤味が強かったり、表面にフケが着いたように見える時には、「日光角化症」も疑われます。日光角化症は、悪性腫瘍に分類され、放っておくと皮膚の奥まで進行します。赤く見えることもあるため、湿疹と考えられて外用治療が長期間続けられ、治りが悪いためようやく気づかれることもあります。同じように、陰部にできる腫瘍で、外観から湿疹やカンジダ症、白癬と思いこまれたまま、外用療法を長期間続けられる危険のある悪性腫瘍には「乳房外パジェット病」があります。これらの「日光角化症」や「乳房外パジェット病」は、初期には病変は盛り上がらず、一見すると「できもの」という印象はありません。長期間外用薬を続けていても治らない、このような病変がある場合には、是非、皮膚科専門医の診察をうけて下さい。

さらには、治りの悪い“傷(きず)”も要注意です。何十年も前のやけどの傷や、長時間治っていない外傷後の傷、放射線照射のあとには、「有(ゆう)棘(きょく)細胞(さいぼう)癌(がん)」が生じることがあります。有棘細胞癌はカリフラワーや巨大なイボのような外観をとることもありますが、時に、“治りの悪い傷”と思われたまま深く進行することがあります。

その他、代表的な皮膚悪性腫瘍には、鼻を中心とした顔の中央部に好発する「基底(きてい)細胞(さいぼう)癌(がん)」、“ほくろ”と区別が難しい、悪性度の高い皮膚癌として話題になることの多い「悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)」があります。さらに、やっかいなことには、時に、黒くない悪性黒色腫もありますので、注意が必要です。

皮膚にできた病変が悪性腫瘍かどうか、あるいはどの種類の悪性腫瘍かの診断には、たくさんの皮膚腫瘍を経験した熟練した皮膚科医の目による診察をうけることが推奨されます。最近はダーモスコピーという特殊な装置が診断の補助に活用されています。また、皮膚生検といって、皮膚の一部を切って顕微鏡で細胞をみる検査も行われます。この検査は、局所麻酔をして行います。腫瘍の種類によっては、後の手術の計画を考慮した上で皮膚生検を行った方がよいものもありますので、皮膚科医の目と経験を生かした判断が必要になります。

皮膚にできたものは、みなさんにも直接見えるだけに、“悪いもの”ではないかと気になり出すと不安がなくならないものです。お気軽に皮膚科医に相談して下さい。