保健の窓

進歩する認知症医療

鳥取大学医学部脳神経内科学分野教授 中島健二

新たな治療薬に期待

認知症の医療は、以前は有効な治療法がほとんどありませんでした。認知症のなかで多数を占めるアルツハイマー病では、脳のアセチルコリンが低下しています。アセチルコリンはアセチルコリンエステラーゼによって分解されます。そこで、アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害してアセチルコリンを増加させることにより、認知症を改善させることが期待されます。このような考え方により、1999年にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が我が国でも使用可能になりました。

昨年になり、3種類の新たなアルツハイマー病治療薬が登場しました。このうちの2種類は上記と同じアセチルコリンエステラ-ゼ阻害薬です。その内の一つの薬剤は、貼って使用するパッチ剤です。貼付状況が目で見て確認できますので、介護者から好まれる場合も少なくありません。残りもう一種類の薬剤は、グルタミン酸という物質の神経伝達に関係するものです。過剰なグルタミン酸は神経細胞毒性を示します。これを抑制することによって神経細胞を保護し、記憶などを改善させることが期待されます。

これらの治療の進歩を受け、認知症診療の普及を目指して、認知症疾患の治療ガイドラインも作られています。

4種類の薬剤による使い分けや併用などが可能となり、認知症医療は新たな時代に入ったと言えます。

患者増加の背景

認知症は増加しています。なかでも、軽度の認知症の方が多くなっているとの指摘もあります。この認知症の増加には、高齢化による高齢者の増加、認知症発症の増加、認知症への関心が高まってこれまで見過ごされていた軽度の認知症の早期診断が進歩したこと、といった可能性が影響していることが考えられています。

以前は、単なるもの忘れのみならず、興奮、暴力、徘徊、幻覚、うつといった“認知症の行動・心理症状(BPSD)”と呼ばれる症状が強くなって生活に支障を来たすようになった段階で受診されることが多かったように思います。最近では、治療薬の登場もあって、認知症への関心も高まり、“少しもの忘れがあるようになったけど、認知症かな?”と思って、より早期に受診される場合が増えているように思われます。また、もの忘れ症状のみならず、前述のBPSDについても、その発生を防ぎ、もし生じたらできるだけ早く、こじれて症状が増強する前の軽いうちに対応することが重要である、といったことも指摘されています。

“もの忘れが強くなったな”などと思われたら、遠慮なく、早い機会に、近くの神経内科、精神科、あるいはかかりつけの先生方に相談して下さい。