保健の窓

軽い糖尿病が危ない-糖尿病の克服に向けて-

鳥取県医師会副会長 富長将人

 

糖尿病という病名はポピュラーとなり、知らない人はないと思いますが、正確に理解されていない面があるかと思います。最近ではメタボリック症候群の病名がトピックスのように、マスコミでも持てはやされていますが、実はメタボリック症候群の予防と治療は、糖尿病のそれと全く同じと考えてよいのです。今や糖尿病は国民病と言われるほど増え続け、これを克服することが急務とされています。

糖尿病を克服するには糖尿病をよく知ることが必要です。糖尿病は尿に糖が出る病気と考えられがちですが、そうではなく、血液中のブドウ糖濃度(血糖)が高くなる病気です。よく、健診で尿に糖が出ても医療機関で再検査したら尿糖マイナスだったから大丈夫として放置されることがありますが、これは間違いで、一度でも尿に糖が出れば、血糖値あるいは詳しい検査(ブドウ糖負荷試験)を受ける必要があります。

血糖が高くなるのは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが充分に分泌されない、ということがひとつの原因ですが、もうひとつ、糖尿病者ではインスリンが働きにくい、という特徴があります。この二つのことから血糖値が高くなり、その状態が長く続けば神経障害、網膜症、腎症といった合併症を生じることになります。

糖尿病には重症の糖尿病もあれば、比較的軽い糖尿病もあります。重症の場合は、比較的早い時期に自分のインスリンが殆ど出なくなり、体重減少などの症状が出て、早い時期から飲み薬あるいはインスリン注射といった薬物療法が必要になりますが、軽い糖尿病では、比較的長い間自分のインスリンがある程度出されており、血糖が高くても体重減少などの症状が出にくいのです。従って、重症の糖尿病では比較的早期から治療が開始されますが、軽症の糖尿病では症状が乏しい為に放置されることが多く、その結果合併症を生じることになります。

この軽い糖尿病は、血糖値が高くても本来、食事療法だけでよくなるのですが、放置することにより重症の糖尿病に移行します。すなわち、糖尿病の合併症で失明したり、人工透析が必要になったりする人は、元々は軽い糖尿病であった人が多いのです。軽症だからといって甘く考えないで、食事療法と運動療法を実施して定期的に検査を受けることが大切です。


 

糖尿病の治療の基本は食事療法と運動療法にありますが、これは糖尿病でない人には糖尿病の予防になります。すなわち、糖尿病は今や、誰でも罹り得る病気ですので、その予防の為に全ての国民が糖尿病者と同じ食事療法と運動療法を実施することが望ましいといえましょう。

前回述べましたように、糖尿病には二つの特徴的な病態がありますが、この二つの病態を是正することが糖尿病の治療になります。ひとつは膵臓からのインスリン分泌不全です。沢山食べるとインスリンを沢山必要としますが、インスリンが充分に出てくれないとインスリン不足となります。そこで、必要な量だけ食べて余分には食べないようにする、これが食事療法です。食事の内容はバランスのとれた普通の食事と考えてよいでしょう。

糖尿病者のもうひとつの特徴は、インスリンが働きにくい、という病態があるということですが、運動して筋肉を動かしたり、体重が減少するとインスリンが働きやすくなります。運動療法が治療の基本のひとつである所以です。

次に、糖尿病者が食事療法と運動療法をきちんと行っても血糖値がよくならない場合、経口剤の服用やインスリン注射が必要になります。糖尿病の飲み薬は、近年次々と新しいタイプのものが開発され、その人の病態に合わせて色々な薬を組み合わせて使うことも多くなりました。また、インスリン注射製剤も次々と新しいものが開発されて、正常な人のインスリン分泌状態に近づける工夫がなされるようになりました。しかし、このような薬剤を使用しても血糖値がよくならないことを経験される患者さんも多いことでしょう。食事療法をきちんとしないで薬を飲むだけでよくなる薬は、残念ながら、無いといってよいのです。食事療法しないで薬を服用すると、一時的には血糖値が下がりますが、その後体重の増加とともに再び血糖が上昇し、結局、血糖値がよくならないばかりか逆に糖尿病を悪化させる、という結果になることもあるのです。

一方、食事療法と運動療法を正しく行った上で、必要な場合に薬物療法を併用すれば、どんな糖尿病でも良好な血糖のコントロールを維持することが出来るといってよいでしょう。糖尿病の正しい治療法、それは常に食事療法と運動療法が基本になりますが、糖尿病が進行しインスリン分泌不全が著明になれば経口剤、あるいはインスリン注射が必要になります。この場合、ためらわずに薬物療法を併用することも大切です。