保健の窓

見えない病気「睡眠時無呼吸症候群」に打ち勝つために

中部医師会員 宮川秀文

 

睡眠時無呼吸症候群は2003年2月の新幹線運転士による居眠り事故から社会的関心が高くなり、身近な病気として認知されつつあります。脳が原因である中枢性と咽頭等が狭くなる閉塞性に分類されますが、多くは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS;オーサス)で肥満を伴う中高年の男性に多く、舌の後ろや咽頭部の気道が睡眠時に狭くなり鼾とともに無呼吸が起こります。

日本人では欧米人に比べ肥満を伴わない例がやや多く、下顎が小さく頭蓋骨の前後径が短い等の民族的特徴が原因と言われます。患者数は全国で約200万人、30-60歳では男性の4%、女性の2%と推定されます。動脈血の酸素減少等による呼吸障害と頻回の夜間覚醒等による睡眠障害から、睡眠中の窒息感・あえぎ呼吸・不眠ひいては昼間の過剰な眠気・体のだるさ・集中力低下等が起こります。

OSASは生命を脅かす生活習慣病とも深く関係し、狭心症・高血圧症・糖尿病・高脂血症等の合併率が高く、重症では8年後の生存率が63%と極めて低い事が米国より報告されました。睡眠中に起こるため本人が自覚する事が少なく、配偶者等のベッドパートナーが気をつけてあげる事が大切です。夜間の呼吸・脳波等を記録するポリソムノグラフィーが確定診断に重要ですが、最近は簡便な方法も開発されスクリーニングであれば手軽に自宅でも行えます。経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP;シーパップ)が最も有効で、鼻につけたマスクを通して空気を送り狭くなった気道を広げます。1998年の保険適応後患者さんは飛躍的に増加しています。

CPAP以外の治療として生活習慣の是正(減量・横向きの就眠・禁酒・禁睡眠薬等)や歯科装具(マウスピースのような器具;自費)が有効です。気道を広げるための耳鼻科的手術が有効な例もありますが効果はやや劣ります。鼾・無呼吸・昼間の眠気を危険なサインとして捉え、積極的に医療機関を受診される事をお勧めします。

睡眠時無呼吸症候群、特にその多くを占める閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)では無呼吸・低呼吸による昼間の過剰な眠気・集中力低下・倦怠感から、患者さんのみならず社会的に多くの人的・経済的損失を引き起こす可能性が知られています。特に交通・作業事故と作業能率低下が重要です。交通事故については、米国では全自動車事故の15-20%がOSASに代表される昼間の過剰な眠気が原因と言われていますが、経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP;シーパップ)を行なうと事故の危険性が低下する事が示唆されました。

日本でもOSASで居眠り運転を経験した人の割合は健常者の2倍、最重症者では3倍である事が判明しました。交通事故は運転者のみではなく、被害者にこそ大きな問題となります。また人・物の輸送に携わる職業的運転者においては、2003年2月の新幹線事故の如く一度の事故で社会全体に大きな影響を及ぼす恐れがあります。作業事故では、OSASによるものとは断言できませんが、何らかの睡眠障害が原因で1979年のスリーマイル島の原発事故、1989年のアラスカ沖原油流出事故が起きたと推測されています。OSASも含めた睡眠障害による経済損失は米国は年間500億ドルを越えるといわれています。

日本では新幹線運転士の事故直後、2003年3月に国土交通省から自動車運送業界に対し運転者の健康管理に関して通達が出されています。輸送に関わる業界でも、エプワース眠気尺度というアンケート式の検査法や簡易型アプノモニター(無呼吸等を簡便に検査出来る機器)を使い、OSASの掘り起こしが始まっています。

今後は、作業事故と作業能率低下防止、職員の健康維持の観点から、一般企業でも睡眠に関する検診が追加される事が望まれます。今こそ、人生の3分の一を占める睡眠についてお一人お一人が考え直してみる時代と言えるのではないでしょうか。