保健の窓

臨床検査結果の読み方

鳥取県立中央病院病理診断科部長兼臨床検査科部長 中本 周

参考値はあくまで目安

現在の医療には臨床検査は不可欠であり、1000を超える検査を医師は使いこなしています。しかし皆様にとって検査は馴染みが薄く、見慣れない言葉や数字が沢山あり戸惑うことでしょう。鳥取県立中央病院の人間ドック通知表にも50を超える検査が並んでおり、その横に検査結果と参考値が並んでいます。この参考値とは何でしょう?

参考値はかつて正常値と呼んでいましたが、これを外れると異常だと誤解を招くので、現在では参考値または基準値と呼んでいます。多くの参考値は、多数の健康人に検査を行い上端2.5%と下端2.5%を除いた中央の95%の値です。従って仮に12の検査をした場合、健康人でも2人に1人は何らかの検査が参考値を外れることとなります。ですから参考値を少々外れたからと言って落胆することはありませんし、逆に病気でありながら検査値が参考値内だからと軽々に安心するのも愚かなことです。

臨床検査によっては参考値に臨床判断値を使っている場合があり注意が必要です。例えば健康人の総コレステロールの参考値は上限250 mg/dLですが、これが220を超えると心筋梗塞の発症率が高まるので、この値を治療開始の目安としています。

変動する検査値

前回は「臨床検査値が参考値を少々外れても落胆しないように」とお話ししました。元来、検査値は個人個人で若干異なり、その要因には年齢や性などの変え難いものがあります。従って各人の健康時の検査値、即ち「個人の参考値」を知ることが重要です。「個人の参考値」は「集団の参考値」に比し狭い範囲なので、軽微な変動から異常を感知でき、これは医師の重要な仕事でもあります。例えば癌の検査CEAの参考値は6ng/mL以下ですが、これが1前後で推移している癌患者さんにおいて、経時的に3→5と増加すれば参考値内であっても癌の再発を疑います。

検査値は、特に血糖や中性脂肪などでは、食事や運動などで変動します。ですから血液や尿の採取は早朝安静空腹時となっています。余り知られていませんが、尿の採取法も重要です。最初に出る尿には体の表面に付着した細菌などが混入するので、検査結果が不正確となります。従って丁寧な病院では最初の尿は捨て、いわゆる「中間尿」の採取を指導しています。

本稿のキーワード「①臨床検査の参考値、②個人の参考値、③検査値の変動要因、④血液や尿の正しい採取法」が検査結果の正しい判読の一助となれば幸いです。