保健の窓

膵疾患について~膵炎と膵がん~

鳥取赤十字病院 内科 武田洋平

飲酒が引き起こす膵炎

 膵臓に生じる病気には膵炎と膵がんがあり、いずれも罹患者数が増加しています。今回、『膵疾患について』と題して、『急性膵炎と慢性膵炎』および『膵炎と膵がんの関係』についてお話しします。 飲酒が原因となる病気として、アルコール性肝障害(肝炎、肝硬変、肝がん)をはじめ、高血圧や痛風、脳の萎縮などが知られていますが、膵臓でも膵炎を引き起こします。膵炎は急激な腹痛で発症する急性膵炎と、一時期に腹痛を伴い徐々に膵機能を失う慢性膵炎に分類されます。急性膵炎は通常は一過性であり入院治療で治癒しますが、重症化した場合は致命率が高く予後不良です。男性が女性の2倍罹患しやすく、主な原因は男性がアルコール、女性では胆石が挙げられます。慢性膵炎では飲酒後や高脂肪食後の腹痛・背部痛発作を数年間かけて繰り返し、消化吸収不良や糖尿病が現れるようになります。急性膵炎と同様に男性が女性の3倍罹患しやすく、主な原因は男性がアルコール、女性は特発性(原因不明)です。アルコールが原因の膵炎は飲酒習慣の改善、すなわち禁酒が予防と治療につながります。

 

 

 

 

膵炎と膵がんの関係

 膵がんは本邦での2014年がん死亡数予測で肝がんを抜き4位となり、高齢化の影響を除いても増加傾向となっています。膵がんは以前から罹患率と死亡率がほぼ一致するきわめて予後不良な疾患とされてきましたが、最近では根治可能な微小膵がん発見の報告が増え、全国的に危険因子を中心した早期診断体系が研究されています。 からだの中の各臓器でがんが発生する際に、慢性的な炎症が原因となることが知られおり、胃ではヘリコバクター・ピロリ菌による慢性胃炎、肝臓では肝炎ウイルスによる慢性肝炎・肝硬変が有名です。慢性膵炎も膵がんの危険因子の一つに規定されており、一般の方と比較して13倍膵がん発生率が高いとされています。現状では全ての膵発がんの原因とはいえませんが、早期発見につながる可能性があるため、定期的な検査が必要です。 また慢性膵炎の中には膵がんと類似した形態の腫瘤形成性膵炎という特殊な膵炎もあり、内視鏡的に得られる膵液中の細胞や、超音波内視鏡下穿刺吸引生検法(EUS-FNA)による膵組織を用いて、治療前に確定診断することで、適切な治療法を選択することが推奨されています。