保健の窓

腰痛と坐骨神経痛

鳥取赤十字病院整形外科副部長 高橋敏明

 

人類は二本の脚で直立歩行するようになったことで、腰に負担がかかり、宿命的に腰痛に悩まされるようになりました。事実、総人口のうち80%以上の人が生涯のあいだに腰痛を経験し、私たち整形外科を受診される患者さんの訴えのなかで最も多いのが腰痛です。しかし腰痛の原因はさまざまで、年代によっても違ってきます。

腰痛のほとんどは背骨に何らかの変化が生じて起こりますが、ときには内臓などの病気によることもあります。特に発熱、冷や汗や吐き気を伴うときには注意を要します。またはっきりした原因がなくても心因性のストレスや職場の環境などにより起こることもあります。いわゆるぎっくり腰など腰痛が急激に生じたとき、膝の下に枕を入れて寝るなど安静を保つことが重要です。しかしどんな姿勢をとっても痛みが軽減しなかったり、発熱や排尿がしにくいなどの症状を伴うときは、なるべく早く整形外科を受診してください。診断は問診、診察による身体所見やレントゲンなどにより行います。必要に応じて血液・尿検査を追加することもあります。腰痛の原因がはっきりしないときや坐骨神経痛など下肢の症状を伴うときには、画像検査としてMRI(核磁気共鳴画像)検査は非常に有効です。

治療は薬物療法、コルセットなどの装具療法、神経ブロックなどの注射、牽引、体操療法および理学療法などがあります。ときには手術が必要になることもあります。しかし原因により治療や日常生活での対処のしかたも違ってきますので、まず腰痛の原因を明らかにしましょう。次回は腰痛に下肢の痛みやしびれを伴い、日常よくみかける疾患である腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症についてお話しします。

腰椎椎間板ヘルニアは30歳代を中心とした青壮年期に多い疾患です。重いものを持ち上げたり、外傷を機に生じることもありますし、明らかな誘引がないこともありますが、激しい腰痛や下肢痛を引き起こすのが特徴です。「咳やくしゃみをしたり、靴下をはくときなど臀部から足にかけて電気が走るように痛い。」というような人は可能性があります。これは腰椎の椎骨と椎骨のあいだにある椎間板というクッションの役割をする軟骨がありますが、その周囲の繊維輪に亀裂が生じ、なかの髄核という組織がとび出して、神経を圧迫することにより起こります。最近ではMRIでとび出したヘルニアが自然吸収されるケースもかなりあることが確認されています。多くの場合は安静、消炎鎮痛薬やブロック注射が有効で、手術しなくても軽快します。しかし排尿や排便障害が現れたり、重度の筋力低下を生じたり、薬や注射で痛みがコントロールできないときには手術が必要になります。

腰部脊柱管狭窄症は60歳代以降の中高年に多く見られます。背骨には脊柱管という神経の通り道があります。この脊柱管が生まれつき狭かったり、加齢によって狭くなることにより、神経が圧迫されて腰痛、下肢の痛みやしびれ、ときには会陰部のほてり、排尿や排便の異常が起こります。「しばらく歩くと脚の痛みやしびれで歩けなくなるが、少し腰を曲げて休むとまた歩ける。」これは間欠跛行と呼ばれる特徴的な症状です。「歩くのはつらいが、自転車ならいくらでもこげる。」というような人も要注意です。治療は血流改善薬を用いたり、コルセットの着用や神経ブロックなどを行います。歩行障害や排尿・排便障害が強いときには手術を要します。