保健の窓

脳血管内手術について

鳥取大学医学部脳神経外科 瀧川晴夫

 

脳神経外科というと頭を切って頭蓋骨を外して脳の手術を行う診療科です。しかし、脳血管内手術とは、DSAというレントゲンの機械で造影剤を用いて脳血管撮影を行いカテーテルという管の位置を確認しながら、脳の血管の中にカテーテルを挿入して主に脳血管障害を治療する方法です。多くの場合、足の付け根にある大腿動脈や大腿静脈からカテーテルを血管内に挿入します。

まずは太めのカテーテルを頚部の血管まで挿入して、この中に非常に柔らかい細い長いカテーテルを挿入して脳の血管病変まで進めて治療します。カテーテルを通して静脈からの注射ではあまり効果の出ない薬を直接病変に投与できます。また、カテーテルを通して塞栓物質で血管病変を閉塞させたり、風船付きカテーテルで狭窄した血管を開いたりすることが出来ます。つまり、頭を切らない手術法です。欧米では脳神経外科ではなく放射線科の中の神経放射線科で行われている治療方法です。なぜなら、欧米では脳血管撮影は神経放射線医が行ってきたからです。

脳血管撮影はカテーテルから造影剤という薬を流して行う脳の血管の検査で脳血管内手術の基本手技となります。日本では脳神経外科で脳血管障害を治療してきた背景から脳血管撮影の手技になれた脳神経外科の先生が主に行っています。方法的には神経放射線科の手技ですから、当然、放射線科の先生や脳神経内科の先生も行っています。また最近では循環器内科の先生が頚動脈狭窄症を心臓と同様に風船の付いたカテーテルで治療しているところもあります。手技が脳神経外科の手術と異なるため、新たに脳血管内手術の専門医制度も行われるようです。このように日本と欧米とは違う背景があります。

脳血管内手術は新しい治療法のように思えますが、1960年代にはロシアで最初の脳血管内手術が行われています。ただ、安全性の面で問題がありました。一般的に脳血管撮影の危険性は、造影剤の副作用、カテーテル操作による脳塞栓症と穿刺部の出血が挙げられます。これに加え脳血管内手術ではさらに頭蓋内までカテーテルを挿入するので脳血管損傷による頭蓋内出血が生じる可能性や血流障害で脳梗塞を生じる危険などがあります。つまり、生命の危険や半身不随などの後遺症の原因となる脳梗塞や頭蓋内出血の危険があるのです。それでも治療困難な病気に対して脳血管内手術は続けられました。

最近、カテーテルの改良やDSAなどのレントゲン機械の進歩により格段に安全性が向上してきました。1991年GDCというコイル(プラチナの糸)が開発され、日本でも1997年に認可されGDCで脳動脈瘤が治療できるようになりました。最近、一部の脳神経外科ではくも膜下出血を起こした脳動脈瘤に対して開頭術より脳血管内手術による治療を第一選択にしています。認可されていませんが心臓用の風船の付いたカテーテルや頭蓋外ステントを使って頭蓋内の血管狭窄症に対しても血管形成も出来るようになってきました。

また、脳梗塞を急性期に血栓を溶解する薬を使って脳血管を再開通させる治療があります。これについても日本ではこの薬の頭蓋内投与は認められていません。このような治療は十分に納得された上で行われています。このように今までは治療困難と思われていた脳血管障害の疾患が脳血管内手術で治療される機会が増えてきております。古くから行われている脳血管内手術はある意味で最先端の治療といえると思います。