保健の窓

脳卒中診療の進歩

鳥取県立中央病院神経内科 中安弘幸

 

脳卒中診療の進歩と題して、最近の進歩、今直面している問題点と今後の課題について、お話してみたいと思います。脳卒中診療は、最近めざましく進歩しました。医学の進歩を脳卒中診療の向上に役立てるべく、多くのことが保険診療でできるようになりました。

その際たるものは2005年秋に厚生労働省が認可したtPAの静脈注射による血栓溶解療法です。アメリカに遅れること10年。日本もついに脳梗塞に対して、血栓溶解剤の点滴ができるようになりました。以来、当院を含む多くの救急病院で、血栓溶解剤の静脈投与が、また一部では血栓溶解剤をカテーテルから詰まったところに注射する治療が行われています。効果は、とてもよく効く人が10人に4人くらいです。また、時に副作用としての出血が起こるので、まだまだ改良の余地のある治療法ですが、よく効くときは1日以内に大変よくなられますので、脳梗塞に対する最も重要な治療法の1つと考えています。発症してから3時間以内に注射をする必要があり、時間との戦いです。特に同じ側の手足の力が入りにくくなったり、舌もつれなどが起こったら、できるだけ早く病院に来ていただくようにお願いします。


 

最近脳卒中にかかわる医療機関の連携体制を強化しようということが医療法という、医療に関する法律の中に盛り込まれました。すなわち脳卒中診療を地域の医療機関が役割分担し、相互に連携しあって、脳卒中の救急治療、リハビリテーション、再発防止治療に取り組もうというものです。現在多くの地域で、脳卒中地域連携パスというものを中心に医療機関相互の連携体制が構築されようとしています。地域のさまざまな医療機関からの医療従事者が集まり、どのようにすると、より切れ目のない医療ができるかを相談しています。そのような進歩とは裏腹に、最近脳卒中(特に救急)診療に従事する医師の数が減っております。脳外科を志す医師、あるいは神経内科を志す医師が減っており、脳卒中診療まではなかなか手が回らない状況が日本のあちこちで見られるようになりました。さらにマンパワーを投入すればより良い診療ができるとわかっていても、投入できるマンパワーがないという状況がじわじわと広がっていくことに大きな危機感を感じております。山陰の脳卒中診療の水準を維持するためにも、脳卒中に携わる医師の確保が緊急の課題となっています。