保健の窓

胃がんの話~ピロリ菌との関係や内視鏡治療について~

鳥取県立中央病院 消化器内科部長 田中 究

胃の病気とピロリ菌

 元来胃の中は強酸性であるため、細菌は生息できないと考えられてきました。しかし、1983年に胃の中にヘリコバクター・ピロリ菌が存在することが発表されました。これはその後にノーベル賞を受賞するほどの大発見でした。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者さんを調べると、ほとんどピロリ菌に感染していることが判明し、ピロリ菌を退治(除菌療法)すると、再発率がかなり下がることも分かり、潰瘍の治療は大きく変わりました。 また、日本人には昔から胃がんが多いですが、これも日本人の高いピロリ菌感染率と関係があります。ピロリ菌がいると、胃に慢性的な炎症(慢性胃炎)を起こし、胃がんができるリスクが上がると考えられています。昨年、内視鏡でピロリ菌が原因と考えられる慢性的な胃炎が認められれば、除菌療法が保険適応になりました。特にピロリ菌による胃粘膜の萎縮があまり進んでいない場合は、除菌による胃がん抑制効果が見込まれます。除菌療法は2種類の抗生物質とプロトンポンプ阻害薬(胃酸分泌を抑える薬です)を1週間服用する治療で、1回目の除菌療法の成功率は70~80%程度です。

 

 

 

内視鏡治療について

 胃にがんが見つかった場合、胃がんがどの程度進行しているかで治療法は大きく異なります。胃壁は内側から粘膜層、粘膜下層、筋層、漿膜層の順に層を形成していますが、通常の胃がんは胃の表面の粘膜から発生し、粘膜下層、筋層とだんだん深い層へ浸潤しながら増大し、深く浸潤すればするほどリンパ節などへ転移する可能性が高くなります。 「早期胃がん」とはがんの浸潤が粘膜層または粘膜下層までにとどまるものを指しますが、早期胃がんの中でも、がんが粘膜層にとどまっているものは転移の可能性がほぼないと言われており、手術室での外科手術ではなく、通常内視鏡室で行われる内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という治療で根治が可能です。ESDはおなかを切らずに、口から入れる内視鏡を通した小さなナイフ(電気メス)を使って病変を切除する方法です。1週間程度の入院が必要で、切除した部分は人工的な潰瘍になりますが、抗潰瘍剤の服用で1ヶ月程度で治癒します。 胃がんも早期発見さえできれば、おなかを切らずに内視鏡で治療可能な時代になりました。早期胃がんでは自覚症状を欠くことも多いため、定期的に検査を受けて早く病気を見つけることが何よりも大切です。