保健の窓

胃がんで死なないために -胃がん検診のすすめ-

西部医師会員 野坂美仁

はじめに

日本では毎年約5万(男性3万2千人、女性1万8千人)の人が胃がんで亡くなっており、この数はここ数年大きな増減はありません。人口の高齢化は進み、胃がんの好発年齢である高齢者の数は増えています。即ち、胃がんになる人が増えているのに死亡数が増えていないのです。理由は何なのでしょうか?

胃がんは治せるようになった

「胃がん」というと「不治の病」というイメージを持つ方が多いと思います。確かに、年間5万人もの人が亡くなっているのですからまだまだ「胃がんは怖い」と思われて当然です。でも皆さんの身近に「胃がんだったけど治った」と言う方はいらっしゃいませんか?現在は胃がんの検査方法や治療方法が進歩して、以前ではとうてい見つけられなかったような「早期胃がん」や、治せなかったような「進行胃がん」でも治るようになってきました。 統計上でも日本人の胃がんによる死亡率は減っています。男性では胃がんは呼吸器(気管、気管支と肺)がんにその第1位の座を奪われてしましました。

運を呼び込む胃がん検診

同じ「胃がん」で助かる人は「運が良い」からでしょうか?胃がんを発見するために胃がん検診が有ります。胃がん検診の効果についても、『がん検診の有効性評価に関する研究班』により評価され、胃がんによる死亡率を40~60%減少させる効果があり、特に男性50歳以上、女性60歳以上で有効、その費用効果もかなり高いとされました。公表されている中国がんセンターによる検診発見胃がんの3年生存率は88.7%であり、外来発見胃がんの49.5%と比べると検診によって発見された胃がんは断然有利であることが分かります。更に毎年検診を受けることにより「早期がん」の状態で見つかればその治癒率は95%近くにもなります。検診を受けることは「運」を呼び込む事になるのです。

胃がん検診(X線)で10人に1人は精密検査が必要と判定されこのうち100人に1.5人に胃がんが見つかっています。即ち1000人に1.5人(発見率0.15%)位に胃がんが潜んでいる訳です。全国における胃がん検診の受診率は12.9%(平成13年)です。

米子市における胃がん検診

昭和58年度より施行された老人保健法により、米子市の胃がん検診は検診車による集団検診として開始されましたが平成3年までは年間2000~3000人の受診者数(受診率10%以下)で推移していました。平成4年より医療機関の個別検診が併用され7500人にまで増加。更に平成12年度より全国に先駆けて導入された内視鏡検診の併用により平成14年度には9937人(受診率23.6%)が受診されました。平成14年度に検診で発見された胃がんは56人(発見率0.56% 全国平均の約4倍)で、そのうち早期胃がんは37人(66%)でした。

胃がん検診の不利益

「放射線被曝が心配」とか「検診には偽陽性(誤診)や偽陰性(見逃し)はつきもの」といった検診に特有の不利益がありますが、検診体制の改善や検診医の熟達などによって、利益が不利益を凌駕するように引き続き努力しています。しかし何と言ってもがん検診は、要精検者(ハイリスクの人)については必ず精検を実施することを前提としたシステムですので、精検を必ず受けることは重要です。

鳥取発全国標準

今は早期の胃がんであれば99%治る時代です。「いつか自分も胃がんになるかも知れない」と皆が肝に命じて胃がん検診を受けるようにすれば、手遅れの胃がんで見つかることは無くなります。鳥取県から胃がんで亡くなる人をゼロにしませんか。