保健の窓

肝臓病のはなし 2005~肝炎ウイルスが原因の肝臓病と生活習慣病に関連し[…]

鳥取赤十字病院第一内科部長 松田裕之

 

一般に「肝臓病の原因はアルコール」と考えられていますが、実際に検診や健康診断で「肝臓が悪い」といわれる人の大部分はけっしてアルコールのみが原因ではなく、B型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスが原因の慢性肝炎や、食べ過ぎ・肥満・糖尿病・高脂血症などが原因の脂肪肝のために肝機能の異常をおこしています。したがって肝機能の異常=肝臓病は肝炎ウイルスが原因の慢性肝炎と生活習慣病に関連した脂肪肝が大多数をしめているということになります。

まず、慢性肝炎についてご説明します。慢性肝炎は、肝臓の中で炎症が長い間続き徐々に肝臓を壊していく病気で、原因としてはB型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルス(時には両方のウイルス)が肝臓にすみつくことにより発症するウイルス性慢性肝炎が圧倒的に多く、それぞれ原因となるウイルスの名前を付けて、B型慢性肝炎・C型慢性肝炎と呼ばれています。ここで一つややこしい話となるのですが、これらの肝炎ウイルスが肝臓にすみついても血液(肝機能)検査で異常が出てこない人があります。また、ひとりの人でも時期々々によって血液検査で異常が出たり出なかったりすることもよく見受けられます。ただし、ひとたび肝臓の中で炎症が始まると血液検査で異常が出なくても自然に肝炎が治ることはなく、また、肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、相当に壊れて(慢性肝炎がより進んだ状態を肝硬変といいますが、その肝硬変がかなり悪化して)初めて症状が出てくるため、検診や健康診断で数年来肝機能検査に異常がなくても気付いたときにはすでに肝臓がかなり壊れてしまっている人もけっして少なくないのです。

一方、B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスは「肝がんウイルス」と呼んでもよいくらい肝がんの発生と非常に関連していることがわかっています。検診や健康診断で正体を現すこともなく一方で肝がんとの関連が明らかとなっている肝炎ウイルスが肝臓の中にすみついていないかを知り早い時期から慢性肝炎対策・肝がん対策をたてていくには、検診や健康診断など血液検査を受ける機会に肝炎ウイルスの検査(血液を少し余分に調べれば簡単にわかります)を申しこまれることをお勧めします。この肝炎ウイルスの検査は、鳥取県では平成7年度から「肝がん検診」として、また平成14年度からは国の事業として「肝炎ウイルス検診」が行われています。

次回は最近飛躍いちじるしい慢性肝炎の治療についてと、もう一つの肝臓病である生活習慣病に関連した肝臓病(脂肪肝)についてご説明します。


 

前回は、B型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスが肝臓にすみつくことにより、肝臓の中で炎症が長い間続き徐々に肝臓が壊れていく病気=慢性肝炎についてほんの少しだけご説明しました。B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスは「肝がんウイルス」と呼んでもよいくらい肝がんの発生と密接に関連しており、日本では肝がんの人の90~95%がB型またはC型肝炎ウイルスに感染しているという事実があります。慢性肝炎の経過中に肝がんが発生しやすいということであり、肝炎ウイルスが肝臓にすみついていることが肝機能異常の有無にかかわらず肝がんが発生しやすい状況にあるということです。これらの事実を踏まえ、最近の慢性肝炎の治療は単に肝機能異常の改善のみにとどまらず、慢性肝炎のうちに将来発生してくるであろう肝がんをいかに抑えるかということを念頭においた治療に変わってきています。折しも、2004年12月にB型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスそれぞれに対する新しい治療薬が保険適応となり、従来の治療法をしのぐあるいはより確実とする治療法が登場しました。この4~5年先行されていた欧米にようやく追いつき、2005年は慢性肝炎治療の新しい時代の幕開けとなりました。具体的には、B型肝炎ウイルスに対しては従来の治療薬の欠点を補いウイルスをより確実・長期的に抑える治療薬が、C型肝炎ウイルスに対してはより副作用が少なくより確実にウイルスを退治・抑える治療法が登場し、個々の慢性肝炎の人に応じた治療法の選択の幅がひろがりました。詳しくは専門医にご相談いただければと存じます。

一方、肝炎ウイルスが関係しない肝臓病の代表として、食べ過ぎ・肥満・糖尿病・高脂血症などが原因で肝臓に脂肪が過剰に蓄積したために肝機能の異常をおこす病気=脂肪肝があげられます。脂肪肝は、アルコールの飲み過ぎ・低栄養状態・薬剤性などの原因でもおきますが、圧倒的に多いのは食べ過ぎ・肥満に伴うもので、検診や健康診断で肝機能異常を指摘される人は実に20~30%にものぼりその大部分が脂肪肝によるものといわれています。日本人の食生活の変化と運動量の低下がいわれて久しくなりますが、最近これら生活習慣の変化に伴う疾患の増加とその対策が最も注目を集めています。糖尿病・高脂血症・高血圧など生活習慣病のもとになる食べ過ぎ・肥満を、糖尿病などの生活習慣病を発症してくる以前に実は私たち肝臓専門医が肝機能異常=脂肪肝というかたちでみているわけです。また、従来脂肪肝は生活習慣病の予備軍として位置付けられてきましたが、ごく最近になって、高度の脂肪肝にはアルコール性の肝障害と同様に炎症が加わり徐々に肝硬変へと進行し肝がんをきたすものがあるということが認識されるようになり、このような状態を非アルコール性脂肪性肝炎(頭文字をとって NASH)と呼ぶようになりました。肝炎ウイルスが原因の慢性肝炎ほど高率に肝硬変や肝がんに進んでいくものではありませんが、生活習慣病との関連は疑う余地はなく一部は肝硬変や肝がんにもいたる脂肪肝は、慢性肝炎とともに重要な肝臓病であり、食べ過ぎ・肥満など生活習慣を見直す自己管理により治すことが可能な肝臓病です。「沈黙の臓器」肝臓から発信されている注意信号に気付き生活習慣を見直すことが大切で、私たち肝臓専門医が少しでもお役に立てればと存じます。