保健の窓

肝癌で命を落とさないために

鳥取大学医学部機能病態内科学教授 村脇義和

ウイルス性肝炎から発症
    注射、内服薬で高い治癒率

わが国では近年肺癌や大腸癌とともに肝癌での死亡者数が増えています。肝癌の大部分はB型やC型のウイルス性肝炎に伴って発症しますが、最近では生活習慣と関連した肝癌も増えて来ています。今回、肝癌で命を落とさないためにと題して、ウイルス性肝炎と生活習慣肝臓病のお話をします。

B型やC型のウイルス性肝炎の早期発見、早期治療は肝癌による死亡数の減少に繋がります。このため平成14年より検診に肝炎ウイルス検査が追加されました。C型肝炎は過去に行われた輸血や医療行為により感染し、多くの場合自然治癒することなく、慢性肝炎、肝硬変、肝癌へと進行します。最近ではC型肝炎ウイルスに対して、ペグインターフェロン(週1回皮下注射)とリバビリン(毎日内服)併用療法が導入され、50%以上の高い治癒率が得られています。

B型肝炎ウイルスは出産時に母親から感染して持続陽性者になることが多ため、昭和61年より母子感染防止事業が開始され、現在20歳以下の感染者は激減しています。B型肝炎ウイルス陽性者の多くは肝機能検査が正常な無症候性キャリアとして経過しますが、一部は20〜30歳で慢性肝炎を発症します。発症した肝炎の多くは自然に沈静化しますが、なかには肝硬変、肝癌へと進行する例もあります。肝炎が沈静化しない例に対しては、インターフェロン療法や抗ウイルス療法(ラミブジン、エンテカビル)が行われています。インターフェロンは通常6ヶ月間の投与で終わりますが、抗ウイルス薬は数年以上の服用が必要となります。

なお、B型およびC型の抗ウイルス療法は多少とも副作用がありますので、治療を受ける場合には、かかりつけ医の先生を通して肝臓専門医ともよく相談して下さい。

増える生活習慣肝臓病
    食事と運動療法で減量を

近年生活習慣が関連した過栄養性脂肪肝やアルコール性肝障害、いわゆる生活習慣肝臓病が増えています。生活習慣肝臓病は欧米とともに我が国でも将来肝硬変、肝癌の主要な原因となることが予測されています。

脂肪肝は肝細胞内に中性脂肪が過剰に蓄積した状態で、検診では男性の約30%に、女性の約10%に認められます。原因としては、まず食べ過ぎと運動不足による肥満が挙げられます。通常症状は無く、減量により改善することより、従来臨床的には心配ない疾患と考えられてきました。ところが、最近脂肪肝に壊死(えし)炎症所見や肝線維化所見が加わって、肝硬変、肝癌へと進行する脂肪肝炎が注目されています。脂肪肝炎は、通常検査で脂肪肝とは区別できませんので、診断のためには肝臓に針を刺して組織を採る肝生検が必要となります。肝生検を避けるためにも、脂肪肝と診断されたら脂肪肝炎を考慮して、食事と運動療法で標準体重を目標に減量に努めることが大切です。

ところで、少量の飲酒は長寿につながりますが、過剰な飲酒は肝障害をはじめとして多くの病気を引き起こします。アルコール性肝障害の初期病変は脂肪肝炎ですが、過剰な飲酒を続けると、肝線維症、肝硬変、肝癌へと進行します。肝障害を起こさない上手な酒の飲み方は、自分の適量にとどめることです。日本人では遺伝的にアルコール代謝能が各自で異なっていますので、適量が各自違っています。「健康日本21」では、節度ある適度な飲酒として、通常のアルコール代謝能を有する男性で、飲酒する場合には1日平均日本酒に換算して1合以下が推奨されています。ただ、アルコール代謝能が低い人、女性、65歳以上の高齢者ではこれより少ない量が適量です。