保健の窓

耳よりな加齢と難聴の話

たけうち耳鼻いんこう科 院長 竹内裕一

老人性難聴の特徴

 老人性難聴は、両側の高音域から始まり徐々に中音域・低音域へゆっくりと進行していく難聴です。加齢による難聴は、30歳代からすでに始まっているといわれています。しかし自覚がはやい老眼とは異なり、周囲の人に言われて初めて気付くことが多いのも老人性難聴の特徴です。 この難聴は、単に音が聞こえにくいだけではなく、言葉を聞きわける能力の低下(会話が聞こえても何を言っているか分からない)、音のする方向を認知する能力の低下なども生じます。言葉を聞きわける能力の低下は、脳の老化とも密接に関係しています。発症・悪化させる要因としては、遺伝学的要因・騒音職場での就業等の環境要因・栄養状態や喫煙などの生活様式が可能性として挙げられます。 社会面での問題点で重要なのはコミュニケーション障害です。それにより高齢者は、家にこもりがちになる、会話に参加しなくなるなど、自ら社会との関係を断つ傾向がでてきます。これらが精神的ストレスの原因となり、『うつ』『認知症』の引き金になることもあります。 現時点では、残念ながら老人性難聴に対して有効な治療法はできていません。次回は老人性難聴の方への対応法と補聴器についてお話いたします。

 

 

 

 

老人性難聴への対応

 老人性難聴の特徴は、両耳の高音から次第に聞き取りにくくなる感音性難聴であることと共に、言葉を聞きわける能力も低下することです。会話に際しては話し手側にも以下のような配慮が必要です。①周囲の雑音がないようにして正面から話す。②本人がうるさく感じない程度の大きな声で話しかける。③ゆっくり、はっきり話す。④理解しにくい単語は別の言葉で置き換えてはなす。⑤本人が理解できているか確認しながら会話をすすめる、などです。補聴器は耳の穴に隠れる超小型のものや、デジタル化で音を聞こえやすく処理することができるようなタイプが広がっています。 補聴器の価格は様々ですが、値段が高いのが必ずしも良いのではなく、難聴の程度にあった音量で、自身で操作が可能なタイプを選ぶことが重要です。何種類かを試聴してから装用効果の高い耳、あるいは両耳に使います。ただし補聴器を装用すれば若いころと同じように聞こえるわけではありません。難聴期間が長いほど、今まで聞こえなかった生活環境音(車の通る音や周囲の人の会話音など)が聞こえて煩わしく感じます。初めは静かな場所から補聴器を使い、次第に装用時間を延ばして慣れていく必要があります。