保健の窓

糖尿病最近のトピックス

北室内科医院院長 北室文昭

 

最近糖尿病についてもいろいろ新しいことがわかってきました。そのうちから糖尿病の予防や治療についての話題をお話しします。

『糖尿病はどうして増えたのか』

近年、糖尿病の患者さんが急速に増えてきました。平成8年の厚生省の調査によりますと、日本中で690万人の糖尿病患者がいる、そしてその疑いのあるものまでいれると、1370万人にのぼるといわれています。  なぜ急に糖尿病が増えたのでしょうか。人類が誕生してから200万年、この間人類は多く狩猟によって生活していたと思われます。狩猟はいつもうまくゆくとは限らず、人類は常に飢えと戦っていました。ために食べ物のある時、それを上手にからだにためこむことのできる遺伝子をもった人が生き残って、現在にいたったのだと考えられます。

その後、農耕が起こり、人々は少し楽に食物を得ることができるようになりました。日本では弥生時代に稲作が始まりましたが、その後も度々飢饉に見舞われました。また飢饉がなくても多くの人たちは十分食べ物を口にすることはできませんでした。多くの人が自由に食べ物が手に入り、好きなだけ食べられるようになったのは日本ではわずか40年前のことです。それからあっという間に飽食の時代に突入し、食べ物の中味もかわりました。穀類の摂取は半減し、脂肪は18g から60g と3倍に増えています。

こうなると、たべたものを容易に身につけられる遺伝子は肥満や、糖尿病を起こしやすくさせます。日本人では欧米人に比較して生まれつき膵臓B 細胞の機能が弱いことがあって欧米人ほど極端な肥満者はなく、その前に糖尿病になってしまう。こんなことで爆発的に糖尿病が増えたと考えられています。

『肥満大敵。脂肪組織は内分泌臓器』

昔は脂肪組織は単に脂肪をため込む貯蔵庫と考えられていました。

しかし最近、脂肪組織からいろんなホルモンが出ていることがわかりました。

そのうちのレプチンは食欲の中枢に働いて『もうおなかが一杯になった』という信号を出します。でも肥満者ではその信号を受け取りにくく、そのためにもう十分たべたということを感じられないことが多いのです。

また、糖尿病があったり、肥満があったりした場合、急に食事を減らすと、このレプチンというホルモンが少なくなって、お腹が減った。お腹がへったと感じます。そのためについつい食べてしまうことがしばしばです。脂肪組織からはまた動脈硬化を起こす物質が分泌されていることもわかっています。

『最近DCCT とかUKPDS とか大規模な研究によって、糖尿病のコントロールを従来よりもっと厳重にしたら、合併症をもっとよく防げる』ということもはっきりしてきました。

『糖尿病の合併症で苦しむ人がうんと多くなりました』

現在年間3000人の糖尿病患者が失明し、年間1万人の糖尿病患者が腎不全のために透析に導入されています。

糖尿病ではまた動脈硬化症が進み、心筋梗塞や、脳梗塞になりやすく、したがって糖尿病でない人にくらべて、うんと早く死んでしまうということもはっきりしています。

『糖尿病ではやはり食事療法が基本』

トピックとして新しいくすりが出てきて、治療の選択肢のひろがったこともあげられます。でも糖尿病治療の基本はやはり食事療法です。この基本をしっかり守らないかぎり、糖尿病の治療は成功しないのだということを胆に銘じていてほしいと思います。