保健の窓

糖尿病の薬物治療

鳥取県立中央病院 糖尿病・内分泌・代謝内科 部長 楢崎晃史

ヒトの暮らしと糖尿病

 糖尿病という病気の名前を聞くと、「食事制限が厳しそうだなぁ…」「運動なんてしている暇はないよ…」といったネガティブなイメージが湧いてくる方が多いのではないでしょうか?糖尿病の食事療法というのは、決して食事に制限を加えるというものではありません。合併症がひどく進行した場合を除けば、体格と身体活動量から想定される必要なエネルギーを、適正な栄養バランスで食べましょうというだけのルールなのです。また運動療法といっても飛んだり跳ねたりすることだけが運動ではありません。身体を動かすことは全て運動に含まれますから、運動を全くしていない人はこの世の中に存在していません。ヒトはホモ・サピエンスという「動物」です。動物は「動く」「物」の言葉通り、その多くは「身体を動かす」ことを特徴としており、更に身体の外から栄養をとりいれること、即ち「食事をする」ことを特徴としています。糖尿病の食事療法、運動療法というと何だかとても大変なことの様に感じてしまうかもしれませんが、実際のところはヒトの本来の姿、即ち「適切に食べ」「適切に動く」という当たり前のヒトとしての暮らしが出来ているかどうかを確認する作業なのです。

 

 

 

 

クスリとメガネ

 「クスリ」の治療を始めましょうというお話しをすると、「一生飲まないといけなくなるから絶対に嫌です!」と言われる方がよくおられます。ここで少し考えてみていただきたいのですが、視力が低下してきた方が「メガネ」をかけることを拒まれるでしょうか?おそらく多くの方が、それでよく見える様になるのであれば、「メガネ」をかけようと言われると思います。中にはコンタクトレンズの方がお好みの方もおられるかもしれません。身体能力の足りない部分を補う便利な「道具」を使うことに抵抗感を覚える方は少ないと思います。また見える様になったからといって、もう「メガネ」は要らないという方もおられないと思います。ヒトは進化の過程で「言葉」を用いることと「道具」を使うことを覚えました。足りない部分を補う便利な「道具」を使いこなすことにより進化してきました。実は「クスリ」というのは身体の足りない部分を補うための便利な「道具」なのです。特に日本人の糖尿病では「インスリン」という重要な物質が身体の中で足りなくなってくるため、何とかこれを補う必要があります。「クスリ」という便利な「道具」を、何とか上手に使いこなしたいものです。