保健の窓

糖尿病の予防と治療

鳥取大学医学部保健学科 成人・老人看護学講座成人看護学分野教授 池田 匡

合併症起こす前に

生活習慣病の中でも特に糖尿病の増加は著しく、平成19年度の調査では予備軍を含めて2000万人以上にのぼると推測されています。糖尿病の慢性合併症としては、末梢神経障害(下肢の切断と関連)、網膜症(視力障害や失明)、腎症(血液透析)、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などがありこれらの合併症により生活に障害をきたしたり、死亡される方がとても多いという現状にあります。糖尿病の大部分を占める2型糖尿病(中年以後に肥満などを原因として発症することが多い)の初期には高血糖が認められる以外には自覚症状が全くないことが多く、糖尿病と診断がついたときには6-7年を経過していることが多いのも治療が遅れる原因の一つです。糖尿病も他の疾病と同様に早期に発見し早期から適切な治療を行えば合併症の予防は可能です。血糖が少し高いがまだ糖尿病とはいえない境界型(予備軍)の頃から動脈硬化をはじめとした合併症は進行しますので、その時期からの糖尿病発症予防が重要となってきます。境界型の人が糖尿病を発症する可能性や、合併症を引き起こす可能性についてはブドウ糖負荷試験を含めた精密検査が必要ですので、医療機関を受診して今後の方針を決定してください。

長期治療も辛抱強く

糖尿病と診断がつけば、合併症の発症を防ぐためにも糖尿病を良好にコントロールすることが必要となってきます。2型糖尿病の多くの方は、インスリンの分泌低下とインスリン抵抗性(インスリンの効果が弱くなり、血液中のブドウ糖利用が減少する)の2つが原因となって高血糖が生じています。インスリン抵抗性は生活環境と関係が深く、アンバランスな食事(高脂肪食、高カロリーなど)や運動不足などが原因となり進行していきます。したがって食事や運動を見直してインスリン抵抗性の改善に努める必要があります。

それでもうまくいかない場合には、適切な薬物を用いて血糖値を中心としたコントロールを心がけていく必要があります。糖尿病の人は高血圧や脂質異常症を合併することが多く、そうなると心筋梗塞や脳梗塞の発症率が極めて高くなりますのでそれらにも注意する必要があります。いずれにしても自覚症状のないまま自己管理や治療が長期にわたりますので、治療を中断される方が多いのも糖尿病の特徴です。しかし治療中断例では合併症の発症が極めて高率となりますので、定期的な通院が合併症予防の最適な方法の一つであるという認識を持っていただきたいと思います。