保健の窓

禁煙

安陪内科医院 安陪隆明

禁煙と家族の役割

  「いつも夫には『タバコは体に悪いからやめて』と訴えているのに、まったくやめてくれません。どうしたらよいのでしょうか」。医師の仕事をしていると、よくこんな相談を家族の方から受けることがあります。確かにタバコを吸わない人にとってはタバコのない生活があたりまえであり、そこに何も不便を感じることはありません。ですから喫煙者が「タバコを吸うと肺癌や肺気腫になりやすくなる」という話を聞いてもタバコをやめようとしないことを、非喫煙者が理解できないのも当然です。そして「この人は意志が弱いからやめられない」と決めつけたりします。 


 しかしタバコがやめられないのは、意志が強い弱いといった問題ではありません。人はタバコを一旦吸いだすと、タバコの中に含まれるニコチンが人の脳を変化させてしまい、タバコなしでは、落ち着けない安らげない、タバコなしでは一日の生活そのものが成り立たちにくいという体に変わってしまいます。これがニコチン依存症という病気です。喫煙者の行動や考えを理解するためには、まずこのニコチン依存症という病気にかかっている、という認識が第一歩となります。

 

 

禁煙と家族の役割

  前回お話ししましたように、タバコを吸い続けるというのはニコチン依存症という病気です。喫煙者はタバコに含まれるニコチンのために、タバコなしでは落ち着けない安らげない、一日の生活が成り立ちにくいという体に変わってしまっています。そしてこのまま吸い続けると、肺癌や肺気腫などのさまざまな病気にかかりやすくなるので、タバコを断つことで、タバコなしでも落ち着ける、安らげる体を取り戻していく、つまりニコチン依存症からの回復を目指すということが大事なことになってきます。
タバコを断つと「イライラする」などの禁断症状に襲われることが多いのですが、現在はこれを緩和する禁煙補助薬が保険で使えるようになりました。しかし禁煙補助薬はあくまで禁断症状のみに効くお薬であり、「タバコがないと生活できない」といった不安などの心理的な部分に効くお薬ではありません。

 
 この心理面に対しては、不安や焦りを感じている本人を励ましたり、再喫煙してしまっても再挑戦を促してあげるなどといった家族の対応が大切であり、ニコチン依存症からの回復には重要な要素となります。