保健の窓

白内障は怖くない

鳥取赤十字病院眼科部長 恩田健史

-白内障とは-

目が見えづらくなって眼科へ行き「白内障のせいですよ」と言われた方はけっこう多いのではないでしょうか。

人は目の中心にあるひとみ(瞳孔)を通して物を見ていることを皆さんご存知でしょう。この瞳孔のすぐ内側には直径約1センチのレンズの形をした水晶体という組織があり、ピントを合わせる大切な役割を担っています。正常な水晶体はもちろん透明なのですが、さまざまな原因で濁りの生じることがあり、これを白内障と言います。進行すると瞳孔が白く見えるので古くは「白そこひ」とも呼ばれていました。生まれつき濁っていたり、怪我等が原因のことも稀にありますが、圧倒的に多いのは加齢による老人性白内障です。早い人は50歳頃から始まり、70歳を超えるとほぼ全員に生じているといっても過言ではありません。もちろんその程度にはいろいろあり、軽い濁りの場合には何も異常を感じませんが、進行するにしたがって徐々にかすみがかかったような見え方になり、最後には明暗しかわからないという状態になります。眼球の内部が濁っているわけですから、どんなにメガネをつくり替えてみても良く見えるようにはなりません。

今のところ白内障の確実な予防法というものはなく、進行を完全に止めたり濁りを減少させたりする点眼薬もありません。日常生活に困るほど見えづらくなったら手術を行うのが唯一確実な治療法です。最近はクルマ社会を反映して、免許の更新のために手術を受ける方も多くなりました。目の手術なんて怖いと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。この手術については次回に詳しくお話しいたします。

-「痛みなく安心して手術」・・白内障の手術-

軽度の白内障は視力にあまり影響しませんが、日常生活に不自由するほど進行した白内障には手術が唯一確実な治療法であることを前回お話しいたしました。

白内障の程度や、それ以外の病気の有無などによりそれぞれの方に適した手術法を選びますが、現在最も一般的なのは超音波乳化吸引法と呼ばれるもので、茶目と白目の境い目を3ミリほど切開し、そこから細い金属製の管を入れ、濁った水晶体を細かく砕いて吸い取ってしまうものです。そしてそのあとに透明な人工水晶体(これを眼内レンズとも呼びます)を入れて手術終了です。今日では手術器械の進歩により、とても安全で成功率の高い治療法となりました。また手術時間も30分ほどで済み、体が元気な方は入院なしでも可能ですが、やはり高齢の方が多いので2~3日の入院をしていただいている病院が多いようです。「目を切るなんて痛いのでは?」と思われるかもしれませんが、実は全くと言っていいほど痛みは感じません、安心して下さい。そしてほとんどの方が手術の翌日には、良く見えるようになった自分の目に驚いておられます。

さて手術後の注意ですが、切開部の感染予防や眼球内の炎症を抑えるために2ヶ月間程度は点眼薬を使用します。初めは3~4種類の薬を用い除々に減らしていきますが、その使用方法を守ることはとても大切ですので主治医に指示された通院と薬の使用回数を守って下さい。  白内障の手術は日本中で年間90万件近くおこなわれており、さまざまな手術の中でも抜きん出て多いものなのです。