保健の窓

痛みの慢性化を乗り越える工夫

鳥取市 鳥取ペインクリニック 院長 延原弘明

急性痛に対する鎮痛薬の効果的な使い方

 病気やケガの初期には、警告信号としての痛みを脳に送ります。病気やケガの治りが遅いと痛みは慢性化し神経障害性疼痛など治りにくい痛みに移行してしまうために早目の治療をお薦めしています。急性期の痛みは警告信号である限り手術を含めて積極的治療を要します。薬も大切です。検査の結果、積極的治療は不要と判明しても痛みがあるなら、非警告痛ではあっても薬は重要な治療手段です。一般的には消炎鎮痛薬を指して「痛み止め」と言われることが多いようですが、消炎とは体にもたらされた傷を直す炎症状態を「消す」ことで痛みを抑える作用のことですから、痛みの原因が炎症でなければ当然効果はありませんし、逆に原因の炎症状態が強すぎると効果は及びません。「市販の痛み止めを飲んだけど効かなかった」とよく言われる所以です。この急性痛を痛みという点から見ると、先制鎮痛と言って痛みが出てから薬を使うより、痛みが出る前に薬を使う方が効果的な服用方法であることが分かっています。痛みが出始めた急性期には疼痛時だけよりも、継続服用の方が、漫然と長期服用しないように原因治療を並行して受けることで結局、短期間で休薬・総量の減量が可能となります。

 

 

 

 

慢性痛に広がる効果的な治療・対処法の選択肢

 痛みの慢性化の原因が少しずつ分かって来ました。痛みが無い時は体の隅々から伝えられる様々な感覚の信号を感知する感度が弱められ 、痛みがある時だけ警告信号が伝わります。ところが痛みが長引くと痛みに対する感度が狂ってしまい、正しい信号が伝わらなくなってしまいます。こうなって来ると急性痛と同じ薬を服用しても効果はありませんが、抗うつ薬や抗てんかん薬を服用すると軽減することがあります。又、もっと強力な麻薬系鎮痛薬の服用をお薦めすることがあります。そんな薬剤を使ってもなお痛みが長引くことがあります。まず第一に筋肉や体の異常が長引く場合。第二に痛みを意識し過ぎたり、うつや不安、心配が重なると 脳つまりこころが痛みに対して過敏になったりします。第三として仕事や人間関係などの社会的環境によっても痛みは大きく変化します。こういった三要素に対して、慢性痛を和らげる方法も解かって来ました。ウォーキングや運動、リラクゼーション、趣味、食事の改善など 生活を楽しむことが痛みの感じ方を正常に戻す脳のトレーニングにもなるのです。一つの方法だけではなく その中で自分にとってぴったり合うやり方を見つけることが大切です。