保健の窓

疲労を科学する―効果的疲労回復法で生活習慣病も予防できる―

鳥取大学医学部病態解析医学講座・臨床検査医学分野助教授 下村登規夫

 

「疲労」という言葉はあまりに一般的なために,重要視されてきませんでした.しかし,「疲労とは何か」と問われると十分な返答ができる人は少ないのではないでしょうか.「疲労」とは,”作業による作業能力の低下”,”生活,作業等により生体の恒常性維持の機能水準の低下”などさまざまな表現が用いられています.これらをまとめて「疲労とは生体防御の一現象である.ある仕事の量を実行した場合,もしくは平常と異なる環境におかれた場合に,一種独特の感覚をいだく状態で,種々の現象から抽象化された一つの概念である.」と産業疲労委員会が定義しています.疲労を軽視できないのはBertという人が述べていますように生体のある種の防御反応として,疲労が現れてくることにあるのです.すなわち,「疲労(感)」は体内の生理的な警報を無意識のうちに感じ取っているのだということを忘れてはいけないのです.近年,疲労回復ドリンクが数多く市場に出回り,その売り上げが伸びていることは,「いかに現代人が疲労しているか」ということを示していることにほかなりません.「疲労は蓄積する」といことも知られています.生活習慣病の多くは蓄積した疲労がもとになっている可能性も否定できないのです.

疲労というと「乳酸」という物質が関係していると考えられがちですが,乳酸だけでは説明がつかないところもあります.つまり,短時間に激しい運動をした後では血液の中の乳酸は増加するのですが,4時間にも及ぶランニングを行って疲労困憊しているにも関わらず血液の中の乳酸は始める前よりも減少してしまうのです.つまり,一つの物質だけでは疲労は説明できないことになります.乳酸は筋肉疲労に関係していると考えられていますが,筋肉は疲労していなくても「疲労」を感じることがあります.これが疲労感です.すなわち,疲労は筋肉だけではなく,精神的な面も大きいことがわかります.これらのことを考えると,疲労を蓄積しないようにすることが,肉体的にも精神的にも健康に生きるコツであるとも言えるのです.次回は疲労の回復手法についてお話します.

疲労の回復手法として最も大切なものは睡眠であることを否定する人は少ないでしょう.では,効果的な睡眠とはどのようなものなのでしょうか.長く眠ればそれだけ疲労は回復されるのでしょうか.実は人間にとって適切な睡眠時間は8時間程度とされているのです.ときに休日などに昼過ぎまで眠ったにもかかわらず体のだるさが増してしまったということや昼寝を2時間したらよけいに体がだるくなったと言うことはよく経験されることです.これは人間の日内リズム(体内時計)と関連があるのです.人間の体は約25時間周期で活動していることが知られています.しかし,地球は24時間周期で自転しているのでずれが生じてしまいます.このずれを元に戻して25時間になりつつある人間の体内時計をゼロに戻すことをリセットといいます.このリセットをしてくれるものが,光・食事・会話・運動なのです.ところが,昼過ぎまで眠ってしまったり,長い昼寝をしてしまったりすると体内時計が大きくずれてしまうことになります.これは,いわゆる「時差ぼけ」と同じことになるのです.すなわち,筋肉の疲れはなくなっているのに,脳の生活時間がずれてしまっているために疲労感が起こってしまうと言うことです.ですから,眠りすぎないこと,昼寝は40分程度にしておくことが重要です.

次に栄養面ではどうなのでしょうか.疲労回復ドリンクの効果はあるのでしょうか.精神的な面における効果は大きいと考えられます.栄養面ではビタミンB1およびB2が疲労の回復には重要とされています.それはこれら2つのビタミンは糖分や脂肪をエネルギーに変換する際に重要な役割を持っていまるからなのです.さらにビタミンB1は神経系にも作用して神経の興奮伝達を円滑にしてくれる作用も持っています.したがって,これらのビタミンは疲労(感)の回復に重要であるといえます.ビタミンは食事からの摂取が基本であるとされています.これらのビタミンばかりではなくマグネシウムなどのミネラルも疲労回復のためには重要です.きちんと食事をとって疲労を蓄積しない生活を送ることはストレスの回復にもつながります.生活習慣病の予防のためにもその日の疲れはその日のうちに取り去って元気な毎日を送りましょう.