保健の窓

生活習慣病を克服し、健康寿命の延長を!!

鳥取大学医学部統合内科医学講座 病態情報内科学分野教授 重政千秋

生活習慣病はなぜ恐い?

1.生活習慣病とは?

生活習慣病は、成人病に代わる行政的用語として平成8年に導入されました。成人病とは「脳卒中、癌、心臓病、さらには心臓病や脳卒中に深くかかわる動脈硬化症とその危険因子である高血圧、糖尿病、高脂血症など40~60歳代の働き盛りに多い疾患」と定義され、以後厚生省は健診等による早期発見・早期治療(2次予防)に力を注ぎ、国民の健康増進に貢献してきました。にもかかわらず、これらの疾患は依然として増え続けております。成人病は誕生後の生活習慣と遺伝的素因が複雑に絡み、加齢と相まって発症します。そこで厚生省は新たに生活習慣病の名のもとに、個人レベルでの対処が可能な幼小児期からの生活習慣改善に取り組むこと(1次予防)を国民に提唱致しました。

2.生活習慣病はなぜ恐い?

動脈硬化症とその危険因子である高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、そして新たに提唱されたメタボリックシンドローム(次回詳述)などが狭義の生活習慣病です。これらは症状がないために放置されがちです。しかし病気は深く、静かに進行し、動脈硬化症を発症・進展させ、ついには心筋梗塞や脳梗塞により死や寝たきり状態に至らしめます。サイレントキラー(静かなる殺し屋)と言われる所以がここにあります。

3.危険因子の重複はさらに恐い!

高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙などは、単独で動脈硬化症の大きな危険因子ですが、2つ、3つと重複しますとリスクは一気に高まります(数十倍)。

4.治療は食事・運動療法が基本!

生活習慣病治療の基本は、食事と運動療法です。適切な運動を続けることで、血圧や血糖が低下することも証明されています。基本療法でコントロール不十分であっても、個々人の病態に合わせた薬物治療が可能です。

5.健康寿命延長をめざして!

今、生活習慣病発症が若年化し、急速に増えています。幼小児期からの生活習慣改善に向き合うとともに、住民基本健診や職域健診などを通して早期発見・早期治療に努め、健康長寿をめざしましょう。

メタボリックシンドロームの概念とその予防:内臓脂肪を減らそう

1.知っていますか?「メタボリックシンドローム」を!

高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満はいずれも動脈硬化症発症の原因となり、心筋梗塞や脳梗塞により死や寝たきり状態に至らしめる恐れがあることを先週述べました。これらはいずれも診断基準があり、それに当てはまる人には食事・運動療法を基本として必要に応じて薬物治療を行います。しかし、診断基準を必ずしも満たさなくても数値が少し高い(別表参照)項目が重なると動脈硬化症のリスクが一気に高まることが明らかにされ、国際的にも注目されています。明らかな肥満とまではいかないが、腹が出てきた、中性脂肪が高い、血圧や血糖が少し高め、これらが重なった状態をメタボリックシンドロームと言います。

2.病態の中心は内臓脂肪蓄積!

別表の腹囲(臍レベル)の基準は内臓脂肪蓄積を指しています。脂肪には皮下脂肪と内臓(腹腔内)脂肪がありますが、最近脂肪細胞特に内臓脂肪が諸種の生理活性物質(サイトカイン)を産生することが明らかにされ、これらが脂質・糖代謝異常や血圧上昇をもたらすだけでなく、直接血管をアタックするために、きわめて強い動脈硬化のリスクとなることがわかってきました。なぜ内臓脂肪蓄積をきたすのかは十分にわかっていませんが、遺伝的素因に加え、過剰な栄養摂取と運動不足などの生活習慣が大きく関与していることは明らかです(典型的な生活習慣病!)。

3.内臓脂肪を減らしましょう!

内臓脂肪を減らすには、摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やすことに尽きますが、「言うは易し、行うは難し」で、これが出来なくて皆、苦労しています。内臓脂肪は貯まりやすい反面、減らすのも比較的容易。これを信じて、無理なく続けられるダイエットと運動療法(速歩などの有酸素運動)を工夫して下さい。鳥取大学医学部附属病院内分泌代謝内科では、看護師や栄養管理士などのコメディカルスタッフとともに、毎週月曜日に「生活習慣病予防外来」を開設し、食事・運動療法を中心とした指導を行い、効果を上げています。気軽にご相談下さい。