保健の窓

生活習慣病の予防とアルコール~節度ある適度な飲酒とは~

東部医師会員 山下陽三

 

近年、健康増進への関心がとても高くなっており、「健康日本21」および「健康とっとり計画」では、2001年から10年かけて健康づくりの対策分野の一つにアルコールを定め、数値目標をあげ健康作りにとりかかっている。高血圧や糖尿病などの病気は、ふだんの食生活や運動などと密接に関連し、長い年月をかけて症状を起こすため生活習慣病とよばれている。同様に慶弔や祭り、疲れ直しの晩酌、そして各種料理にも使われている飲み物であるアルコールは、飲み方に注意しておかないと「飲酒習慣病」と名づけられるようなさまざまな病気をひき起こす。その内訳は、上部消化管出血、肝臓病、膵炎、糖尿病、高血圧、心臓病、脳神経障害、末梢神経炎さらには外傷、事故などの病名があげられる。

アルコールの効用はいろいろあるものの、その危険性もよく知っておきたい。イッキ飲みなどによる急性アルコール中毒以外に、習慣的に酒を口にするときは、「節度ある適度な飲酒」を心がけて欲しい。これは1日に純アルコールで20グラム程度の飲酒にとどめるということであり、清酒で1合、ビール500ミリリットル、ウィスキーダブルで1杯が目安となる。

実際に日本人の飲酒人口は7000万人以上といわれている。このなかで清酒に換算して1日平均5.5合以上飲んでいる大量飲酒者(問題飲酒者)は230万人と推計されている。内科を中心とする一般の医療機関では、アルコール依存症の可能性のある患者さんを多数診療しており、一般病院の入院患者の20~25%が何らかのアルコール関連疾患をもっているという統計がある。

日本人をはじめとする黄色人種は飲めないか酒に弱い体質の人が5割いる。飲める体質の人も、空腹のときやストレスの解消として使用するとき、強いストレス状況ではかえって人を悪酔いさせ、多量に飲酒した場合は、さらに憂うつな気分を強くしてしまうことなどを知っておきたい。

お酒を毎日3合以上飲んでいて、時々お腹が痛くなったり、朝起きて歯を磨こうとすると吐き気がしたり、頭が重かったり、下痢気味だったりするのは飲み方の危険性を知らせるサインとなる。アルコールを過飲していると自律神経が興奮し、朝から体がだるい、疲れやすいと感じる。また昼間に汗が吹き出すように出る、歩くと動悸がしたり、夜寝ていると足がつって痛くなる、なかなか眠りにつけなかったり眠りが浅いなどが起こる。

アルコールによる臓器障害とその治療をする際、以下の3つの特徴がある。①かなり長い飲酒期間がないと病気は現れてこない。②個人差がある。③酒をやめるとすぐに病気がよくなってしまう。しかし、退院して飲みはじめ、また悪くなって入院してくる。そして、アルコール依存が形成され飲み方が病的な場合、特に肝臓あるいは脳神経への影響が大きくなっている。

肝臓障害には脂肪肝から肝硬変までいろいろな段階があり、健康診断で注意を受けたときは専門医に診てもらう勇気も必要だ。酒を控えバランスの取れた食事を心がけると臓器障害の治りは早い。脳神経障害には、急性アルコール中毒のほか、情緒不安定、知能低下、脳の萎縮などがあり、日常生活に慢性の悪影響を及ぼしていることを忘れてはならない。