保健の窓

「生活習慣病としての高血圧症~血圧と上手に長くお付き合い~」

鳥取県立中央病院循環器科部長 吉田泰之

成人病から生活習慣病へ

高血圧症はわが国では3,500万人といわれており、最も高頻度な生活習慣病です。この国民病ともいえる高血圧症にわが国は、長く取り組んできました。日本人の死亡原因の第1位が結核から脳卒中となった1950年代、当時の厚生省は成人病対策を始めましたが、これは病気を早期発見して、これらが致命的な疾患へ進展するのを防ぐことを目標としてきました。予防医学の立場からは、二次予防といいます。成人病検診が普及し、はじめて広く高血圧症に関心が払われるようになりました。優れた降圧薬の登場もあり、脳卒中の多くを占めた高血圧性脳出血が著しく減少しました。

1996年に制定された生活習慣病は、病気の早期発見、早期治療といった観点で進められてきた成人病対策から一歩進んで、生活習慣の改善によって病気をその一歩手前で予防しようという考えです。予防医学の立場からは、一次予防といいます。薬物療法により血圧を正常化することで脳卒中や心臓病は減少しますが、それでももともと血圧の正常な方と同じ水準にはなりません。高齢化社会が進んで行く中で、高血圧症の発症そのものを予防していかなければなりません。

高血圧症は副腎や腎臓などの病気が原因でおこる二次性高血圧症と、そうでない本態性高血圧症に分けられます。原因のいまだ明らかでない本態性高血圧症は高血圧症全体の95%を占めます。本態性高血圧症は30~40%が遺伝的素因により、残りの60~70%が環境因子により発症すると推定されています。環境因子は生活習慣が大いに関係します。高血圧症に関わる生活習慣には代表的なものとして高食塩摂取、過食、肥満、運動不足、多量飲酒、ストレスなどがあります。生活習慣の改善は高血圧症の予防に重要であることはもちろん、直接的な高血圧症の原因治療法でもあります。すべての高血圧症の方およびその危険性のある方は、薬物療法の有無にかかわらず生活習慣の改善をおこなう必要があります。

今回は、実際の血圧の値についてお話します。

高血圧の診断基準

表1に成人における血圧の分類を示します。正常血圧は収縮期圧140mmHg未満、かつ拡張期圧90mmHg未満ですが、真の正常血圧は収縮期圧130mmHg未満、かつ拡張期圧85mmHg未満、至適血圧はさらに低く収縮期圧120mmHg未満、かつ拡張期圧80mmHg未満に設定されています。これはさまざまな疫学研究から、高血圧に伴う合併症の発症や進行を回避するためにはこのレベルに血圧を管理することが望ましいと考えられているためです。名称は違いますが世界共通の基準です。

家庭血圧について

近年、手軽に正確な測定が可能な家庭用血圧計が普及してきました。自己測定されている方も多くいらっしゃいます。一般に家庭血圧は、医療機関で測定するより5~10mmHg程度低いと言われてきました。日本高血圧学会は高血圧ガイドライン2000年版で初めて収縮期圧135mmHg未満、かつ拡張期圧80mmHg未満を家庭測定値の正常値と定めました。医療機関で測定すると高血圧であっても、家庭血圧は正常というケースがしばしば経験され、白衣高血圧と呼ばれています。また、診察時には良好な血圧でも起床時には血圧が高い早朝高血圧の方が薬物治療中の方にかなりあることが判りました。家庭血圧も有用な情報です。

治療の目的と目標となる基準は

高血圧治療の目的は、高血圧の持続によってもたらされる心臓、脳、血管系の病気の発症および進展を防ぎ、生命予後および生活の質を改善することにあります。治療の目標は一般的には収縮期圧140mmHg未満、拡張期圧90mmHg未満とされてきました。最近の日本での目標は、若年・中年者、糖尿病患者は収縮期圧135mmHg未満、拡張期圧85mmHgとし、高齢者についてはすでに脳、心臓、腎臓などに障害をともなっていることが多いことから、年齢によって収縮期圧140~170mmHg未満、拡張期圧90mmHg未満と幅を持たせて定めています。

おわりに

厚生労働省の提唱する健康日本21では、国民の血圧が2mmHg低下すると、脳卒中による死亡が1万人、心臓、脳、血管系の病気全体で2万人の死亡が予防できるとしています。高血圧症は、生活習慣の修正で改善しやすい病気でもあります。また、近年優れた降圧薬が開発され薬物治療も進歩しています。一方で、高血圧の方の約半数の方は放置しておられ、薬物療法を受けておられる方でも良好なコントロールの方は半数以下と言われています。