保健の窓

狭心症と心筋梗塞

中部医師会員 坂本雅彦

 

心臓は筋肉でできたポンプであり、一日に十万回もの収縮を繰り返して、全身に血液を送り出しています。このため心臓も多くの酸素を必要とします。この酸素は、冠動脈という心臓を養う血管を通って、血液により運ばれています。狭心症、心筋梗塞は、この冠動脈が動脈硬化、痙攣(けいれん)、血栓などにより狭くなったり、閉塞したりすることにより発症します。

狭心症には、安静型と労作型の二つの型があります。安静型は、主に夜半から早朝にかけて安静時に胸痛を自覚します。冠動脈が痙攣(けいれん)を起こし、一時的に閉塞する事が原因であることがわかっています。もう一つは労作型と呼ばれ、坂道を上ったり、重い荷物を運んだりしたときなど、労作により胸痛を生じ、安静にすると数分で痛みは消失します。これは、動脈硬化による冠動脈の狭窄によりおこります。これらの胸痛の特徴は、顎(あご)から下、臍(へそ)から上の身体のまん中に感じる痛みで、その範囲は握りこぶしの広さに感じられます。絞めつける、重苦しい、灼けるなどといった表現をされることが多く、時として冷汗を伴うことがあります。このような胸痛発作を初めて自覚する、発作の持続時間が長くなる、たびたび発作をおこすなど、症状が次第に悪化している場合は、冠動脈の狭窄が進行している可能性が高く、心筋梗塞に移行し易い危険な状態と考えられています。(不安定狭心症と特別に呼ばれることがあります)

急性心筋梗塞は、冠動脈が血栓により突然閉塞する結果、心臓の筋肉が壊死に到る病気です。ポンプとしての機能に障害が生じ、不整脈、心破裂、心不全などの合併症により、院内死亡率10%、病院到着前の死亡を合わせると30%を超える死亡率で、最も危険な病気の一つです。


 

前回述べたように、狭心症・心筋梗塞は著しく生活の制限をうけたり、死亡など生命の危険を生じる重篤な病気です。したがって適切な時期に循環器専門医の診断をうけ、治療を始める必要があります。狭心症を心配して、循環器専門医を受診される方のうち、実際に狭心症である確立は1/3程度であると言われています。不安を抱えながら、心配して日々を過ごすより、まず医師の診断を受ける事をお勧めします。医師は、発作の性質、部位、発症の状況等、問診により診断を始めます。危険因子として、糖尿病、高血圧症、高コレステロール血症、肥満(特に内臓肥満)等の生活習慣病、喫煙習慣などを持っているかも診断の助けになります。外来の検査で狭心症が疑われる場合には、短期間の入院による心臓カテーテル検査、冠動脈造影が必要となります。この検査により冠動脈のどの部位に病変(狭窄、閉塞)があるのかがわかり、治療方針(薬物治療、フーセン・ステント治療、バイパス手術)が決まります。異常がなければ、安心して生活を続けることができるでしょう。

30分以上も胸痛が続く、ニトログリセリンの舌下錠が効かないといった場合には、急性心筋梗塞の可能性が高いので、一刻も早く循環器専門医を受診してください。心筋梗塞による死亡を防ぐために、早期入院による合併症の予防と、閉塞した血管をフーセン治療などにより再開通させて、血流を再開し、完全に壊死に陥る前に心臓を助ける事が必要です。不幸にして心臓が止まったなら、直ちに人工呼吸、心マッサージを行い、救急車の到着まで休みなく続けて下さい。可能なら除細動器(AED)を使用して下さい。一般の方でも実施可能です。尊い生命を救うため、ためらう事なく行ってください。