保健の窓

消化器がん治療の最新の話題

鳥取県立中央病院 院長 池口正英

早期発見、早期治療が日本を救う

 国民医療費が高騰している。2015年に厚生労働省は、2013年度の集計を終え、国民医療費が40兆円を突破したと報告した。国民医療費40兆円突破から更に3年目に入った2016年現在、この数字は更に膨張を続けているだろう。人口高齢化によるところが大きな原因であるが、がん治療の高度化もこれに拍車をかけている。さらに、2025年には団塊(だんかい)の世代が後期高齢者(こうきこうれいしゃ)になり、更なる医療費の高騰が予想される。少しでも医療費を削減するために、医療者と住民は何を考え、何をなすべきであろうか。 鳥取県は、がん検診の受診率は全国平均より高い。しかし、消化器がんを含めた、鳥取県の75歳未満がん年齢調整死亡率(ねんれいちょうせいしぼうりつ)は、減少傾向にあるものの、全国平均より高い死亡率で推移している。これは、がん検診を受ける人と全く受けない人が極端に別れているためと考えられる。鳥取県はいち早く胃がん検診に内視鏡検査(ないしきょうけんさ)を導入した。それにより、早期がん発見率が向上し、胃がん死亡率の低下が期待される。早期胃がんで発見され、内視鏡治療で完治できれば、費用は数万円で収まる。進行胃がんでは、集学的治療(しゅうがくてきちりょう)が必要で、手術と制がん剤治療を含めれば、年間数百万円の財政負担を強いられる。

 

 

 

 

早期発見、早期治療が日本を救う

 医薬品を開発するには膨大なコストがかかる。新薬として承認される確率は1/25,482で、その開発費は1,000億円に上る。開発しても、規制当局による製造販売(せいぞうはんばい)の承認が必要で、それによって安全性や効果を担保している反面、医薬品の価格上昇の一因にもなる。開発費、市販後の安全性調査費用を製造元が負担することで医薬品の価格は上昇する。もし医薬品の価格を下げると、日本に新規薬剤が導入されなくなる可能性もあり、薬価はむやみに操作できない。 わが国では、患者が最低の自己負担額で最善の治療を受けることができ、医師も患者に最善の治療をコストに関係なく選択することができる。このように、誰も損をしない現在の医療システムの中で診療を続ければ、その経済的負担は次世代に先送される。がん治療を変えると言われる免疫(めんえき)チェックポイント阻害薬(そがいやく)が肺がんの適応を取得した。この高額薬剤(こうがくやくざい)の使用は、米国では“financial toxicity(経済的毒性、けいざいてきどくせい)”とも表現される。今後、医師はエビデンス、コスト、社会を意識した医療を考えるであろうし、患者は賢く検診を利用し、経済的負担を軽くしていく努力が求められる時代となるであろう。