保健の窓

消化器がんの内視鏡診療について

鳥取大学医学部付属病院 第二内科 磯本 一

消化器がんの内視鏡診療について

 胃や大腸などの消化器を検査した時に、「ポリープ」があると言われたことがある人も多いと思います。大腸ポリープの約8割は「腺腫」と呼ばれるもので、腺腫は粘膜上皮を形成する腺細胞が異常を来して増殖したもので、がんになる一歩手前の状態(前がん状態)といわれています。実際「大腸がん」はこの腺腫から発生するものがほとんどです。「大腸がん」は、発生率の高いがんで、2014年には女性のがんの死亡数で第1位となっています。 近年大腸検査の主流は「内視鏡検査」です。大腸の中を直接観察することができ、小さなポリープやがんを発見することができます。検査と同時にポリープや早期のがんを取り除くこともできます。内視鏡による切除法には、内視鏡の先端から出したワイヤーをポリープの茎の部分にかけて焼き切る「ポリペクトミー」、内視鏡の先端から注射針で生理食塩水を粘膜下層に注入して同様にワイヤーで切除する「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」があります。加えて、「内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)」といって、粘膜下層に生理食塩水などを注入して病変を粘膜下層ごと電気メスで徐々にはぎ取る方法もあります。ESDはEMRでは難しかった2センチ以上のものでも可能です。外科手術をしなければならなかった病変でも、臓器を温存しつつ、手術と同等の根治性を得ることが可能になりました。ただし、早期段階でリンパ節等に転移していないものに限られます。

 

 

 

 

消化器がんの内視鏡診療について

 鳥取は食道癌で亡くなる患者さんの割合(死亡率)が全国的に最も高い都道府県の1つです。食道癌は予後の悪い消化器癌ですが、早期食道癌は前回御紹介した内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で根治可能です。早期癌を発見するためには、食道癌の危険因子に着目し、ハイリスクグループに対して適切な内視鏡検査を施行することが重要です。ハイリスクグループには、中高齢男性、飲酒、喫煙、頭頸部癌の合併などが挙げられます。特に喫煙と飲酒が重複すると食道の発癌率はさらに上昇します。ヨード染色といって、内視鏡検査中にヨード液(喉が痛いときに塗布する市販薬のルゴールと同じ主成分です)を散布すると、癌の部分は境界明瞭で黄白色にくっきり抜けた領域(不染帯)として視認できます。進行食道癌に対しては外科手術が最も確実な治療法ですが、化学放射線療法といって、抗癌剤と放射線を併用する治療も高い治療効果が得られ、食道が温存できる利点もあります。化学放射線療法後に癌が再発したり残ってしまった場合には、レーザー光線力学的療法が2015年に保険収載されました。腫瘍親和性のある光感受性薬剤(レザフィリン)を投与した後、腫瘍組織に対して内視鏡からレーザー光を照射することによって腫瘍を消失させる治療です。