保健の窓

最近の頭痛治療

鳥取赤十字病院神経内科部長 太田規世司

 

今回より2回にわたり,新しい薬物療法を含めた頭痛治療の現状についてお話しいたします。

頭痛でお困りの患者さんは大きく2つに分けられます(表)。1つは片頭痛に代表される機能性頭痛(いわゆる“頭痛持ち”の頭痛)で,もう1つはその他の原因で生ずる症候性頭痛です。本日はまず機能性頭痛について述べます。

片頭痛は頭の片側(時に両側)がドクンドクンと脈うつように痛む発作性頭痛で,若い頃から頭痛持ちの場合が多く,しばしば遺伝します。前ぶれ(前兆・予兆)や嘔吐を伴うことがあり,日常生活にかなりの支障をきたします。アルコールなどの飲食物やストレス・運動など種々の誘因があり,これらをうまく回避することが治療の第一歩です。治療薬では,従来発作時の頓用薬として鎮痛剤やエルゴタミン製剤が使われてきましたが,近年トリプタン製剤が欧米に遅れること約10年で我が国にも導入され,既存薬以上の効果がみられています。トリプタン製剤には内服以外に注射・点鼻があり,嘔吐などで内服が困難な方にはそちらをお勧めします。また,内服薬には水がなくても飲める口腔内速溶錠もあり,学生の患者さんには重宝します。平成15年末現在で4種類のトリプタン製剤が認可されており,人によってそれぞれ効果が異なりますので,自分にあった薬剤を見つけることが大切です。毎日薬を飲んで頭痛回数を減らす予防薬もあり,症状に応じて組み合わせて処方します。

緊張型頭痛はいわゆる“けんびき”の頭痛で,こりやストレスが原因で生じます。後頭部や頭全体が重い・すっきりしないのが典型的で,何年も続いている方もよく見受けます。こりやストレスを自己管理し,不十分な場合には筋弛緩剤や抗うつ剤を投与することもあります。

群発頭痛は主に20~50歳台の男性にみられる比較的稀な頭痛です。

(表)

頭痛の種類

  1 機能性頭痛
    片頭痛
    緊張型頭痛
    群発頭痛

  2 症候性頭痛

今回は症候性頭痛について述べます。脳や全身の疾患に伴う頭痛で,かぜや二日酔いで頭が痛いのもこの中に入ります(表)。

脳疾患による頭痛のなかで怖い頭痛として,くも膜下出血があげられます。くも膜下出血の多くは脳動脈瘤の破裂によるもので,一部に遺伝傾向もあります。突然今まで経験したこともない程の激しい頭痛に襲われるのが特徴で,「バットでガーンと殴られたようだった」と言われた患者さんもありました。しばしば嘔気や嘔吐を伴い,致死率の高い危険な疾患です。脳CTスキャンや髄液検査で診断し,この病気であれば緊急の入院が必要です。

やっかいなのは薬剤連用性頭痛です。これはもともと頭痛持ちの方が頭痛をとるための薬を過度に内服するために生ずる頭痛で,がんこな慢性頭痛で来院される方の中にはしばしばみられる病態です。頭痛薬をのめばのむほどひどくなるので症状がとれにくく,しかも本人がそれと気付かないうちにこの頭痛になっていることも多く,注意が必要です。複数の頭痛薬を使用している方は特に気を付けて下さい。治療はまず原因となる薬剤の中止,そして頭痛の救済薬や予防薬を投与することです。原因を充分に理解していただいて,御本人の協力のもとに根気よく治療するしかありません。

以上いろいろな頭痛について述べましたが,頭痛の治療で大切なのはまず“敵を知る”ことです。自分の頭痛がどんなものでどんな特徴があるのか,そしてどういう注意や治療をすれば軽減できるのかを自分自身が良く知っておくことです。我々の外来ではそのお手伝いをしています。

(表)

頭痛の種類

  1 機能性頭痛

  2 症候性頭痛
    脳疾患による頭痛
    その他の疾患による頭痛

  薬剤連用性頭痛