保健の窓

時代とともに変遷する「がん」

鳥取大学医学部環境予防医学分野 教授 岸本拓治

◎がん患者の把握方法

がん患者がどれくらい発生しているのかをみる指標として、「り患率」があります。り患率の分子はある期間(通常一年間)の「新しく発生したがん患者」で、分母は対象人口(一般に全国人口)で計算します。ところが、この分子の「新しく発生したがん患者」を把握することは大変な作業となります。新しく診断したがん患者をすべて登録する必要があるからです。具体的には、厚生労働省がん研究助成金による「全国地域がん登録の精度向上」に関する研究班(全国で12県参加)が実施し、全国値の推計をしています。鳥取県も健康対策協議会としてこの研究班に参加しています。一方、がん死亡の詳細は厚生労働省の「人口動態統計」として発表されています。

◎がん患者の発生(り患)と死亡状況

わが国の最新のがん患者のり患数は年間約56万人と推計されています。わが国のがんの死亡率は1950年頃から徐々に増加し、1981年には脳血管疾患(脳卒中)による死亡率を超え、死亡原因のトップになりました。その後も人口の高齢化にともなって増え続けています。  これを臓器別に比較すると、男性でり患数が最も多いのは胃がんであり、全体の23%を占めています。次いで、大腸がん(18%)、肺がん(15%)、肝臓がん(9%)となっています。男性のがん死亡数では肺がん(22%)が最も多く、胃がん(17%)、肝臓がん(13%)、大腸がん(11%)と続いています。女性のり患数で最も多いのは大腸がん(17%)、乳がん(16%)および胃がん(15%)です。死亡数が多いのは、大腸がん(15%)、胃がん(14%)、肺がん(12%)となっています。

◎がんの年齢調整り患率と年齢調整死亡率

わが国は、急速な勢いで人口の少子高齢化が進んでいます。したがって、高齢者にり患(発生)しやすいがんの患者数はどんどん増加する傾向にあります。がんの増加が人口の高齢化によるのか、それとも本当にがんのり患(発生)は増えているのか明らかにすることは大切なことです。人口の高齢化の影響を補正する方法として年齢調整法があります。一般的な方法としては、厚生労働省が発表している1985年モデル人口と同じ年齢構成であると仮定して年齢調整り患率や年齢調整死亡率を計算します。

年齢調整した率でがん全体の状況をみますと、男性のり患率・死亡率ともに過去20年間、ほとんど変化していません。また、女性のり患率では大きな変化は見られませんが、死亡率では徐々に減少しています。

◎時代とともに変化する臓器別がん

がん全体では大きな変化がみられないのに、臓器別のがんについてみると、時代とともに変化が見られます。胃がんのり患率は男女ともに減少傾向にありますが、死亡率の減少の方がより顕著になっています。大腸がんは増加が著しく、特に男性の増加が顕著で、死亡率に比べてり患率の増加が際立っています。肺がんは男女ともに増加が著しいがんですが、り患率・死亡率ともにほとんど違いがありません。乳がんについては、り患率・死亡率ともに緩やかに増加しています。このように時代による臓器別がんの変動は、生活習慣の変化によるもので、がんにも流行(はや)りすたりがあると言ってよいようです。また、このことは生活習慣の改善によりがん予防が可能であるという証拠の一つになっています。